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三洋化成ニュース No.512
2019.01.10
医薬品は、飲む内用剤、皮膚や粘膜に使用する外用薬、血管などに直接入れる注射剤などがある。用途や目的に応じて、粉薬から錠剤、クリーム状から液状までさまざまな形で製剤化されている。その安定性、安全性や均質性を保持し、製剤の特徴に応じて溶解促進や徐放化などの目的で添加される物質を医薬品添加物といい、ほとんどの医薬品は薬効成分とこの医薬品添加物から成る。本稿では、医薬品添加物としてさまざまなはたらきをする三洋化成の医薬品用ポリエチレングリコール『マクロゴール』を紹介する。
当社は1960年に日本で初めてポリエチレングリコール(PEG)を製品化し、PEGはさまざまな分野で活躍している。そのうち、医薬品・医薬品添加剤用に用いられるPEGは『マクロゴール』として区別されている。PEGは図1で示すような一般式で表される。高分子化合物のため分子量分布を持つ。その種類は通常、数平均分子量で規定される。当社は数平均分子量約200から約20,000のPEGを取りそろえている。分子量によって液状、ペースト状、固体状の性状を示し、①毒性が低い、②優れた潤滑性を有する、③異なる分子量のものを任意に混合することができる、④水や多くの有機溶剤に優れた溶解性を示す。このような特長から医薬品・医薬品添加物、ヘアケア・スキンケア製品、洗剤、顔料分散剤、潤滑剤、バインダーなど、さまざまな用途に使用されている。
医薬品用については日本薬局方(局方)または医薬品添加物規格(薬添規)に収載された規格を満たすPEGを『マクロゴール』として、当社は表1に示す6品種を上市している。安全性、品質を確保するために、製造設備や品質管理における厳しい基準(GMP:Good Manufacturing Practice)に準拠した管理体制(医薬品添加剤GMP自主基準適合)のもとに製造している(図2)。
『マクロゴール』は、分子量により液状、ペースト状、固体状(フレーク状または粉末状)と性状が異なる(図3)。蒸気圧などの物性も異なり(表2)、複数の『マクロゴール』を混合して、製剤の硬度や粘度などを調整することができる。
『マクロゴール』の溶解性を表3に示す。極性溶媒には、低温では高分子量ほど溶解しにくいが、50°Cであれば、どの分子量でも溶解性が高くなる。無極性溶媒に関しては温度が高くてもほとんど溶解しない。
『マクロゴール』は毒性(急性経口毒性LD50値)の低い化合物である(表4)。その毒性は、分子量が大きくなるほど低下していく傾向がある。
局方または薬添規には、『マクロゴール』のpHは4.0~7.0と幅広く規定されている。その理由は、『マクロゴール』をはじめとするポリエーテル化合物は、酸素ラジカルによる酸化劣化を受け、pHが低下する経時変化があるためである。一例として、図4に『マクロゴール1500』の経時変化を示した。保管温度が高いほど経時変化が進むため、経時変化抑制のためには冷暗所などでの保管が必要である。また、『マクロゴール』は吸湿性を有するため、湿気を避ける必要がある。吸湿性は分子量が大きくなるほど低下する。
医薬品添加物は、その使用目的により賦形剤、結合剤など70種類近くに分類される1)。医薬品添加物を添加することで、薬効に合わせて製剤化するだけでなく、①使用性の向上(扱いやすさ、飲みやすさ)、②品質の安定化(変質防止など)、③有用性の向上(狙いの場所まで届くように助けること、効果発現速度の調整など)、④安全性の向上(副作用の低減など)などのはたらきが付与される。
『マクロゴール』は毒性が低く、さまざまな性状があり汎用性が高いことなどから、医薬品用添加剤として幅広い用途で使用されている(表5)。液状の『マクロゴール』は保湿剤や外用液剤の安定化剤、脂溶性薬物の可溶化剤などとして使用され、薬物を患部に効果的に浸透させることなどができる。ワセリン様のペースト状の『マクロゴール』は理想的な粘度を持つ軟膏調合ができ、薬物を均等に皮膚に塗り伸ばすことができる。パラフィン様のフレーク状または粉末状の『マクロゴール』は成形性があり、座薬用途に適している。また、錠剤用コーティング剤に添加すると表面の平滑性が増す。錠剤の硬度を向上し、摩損度や流動性を改善することができる。今回は、『マクロゴール』の用途のなかでも、紹介される機会が少なかった腸管洗浄剤や血漿分画用沈殿剤について以下に紹介する。
大腸がんなどの大腸疾患の検査や手術前には腸管内をきれいにする必要があり、腸管洗浄が行われる。洗浄が不十分だと病変の見落としや誤認、手術後の吻合不全や感染症のリスクにつながるため、腸管洗浄は重要である。腸管洗浄剤に求められる機能は、①迅速・簡便に洗浄でき、効果が高い、②代謝・吸収しにくく排出が容易、③飲みやすいこと、などである。PEG系の腸管洗浄剤は、体液の水分や電解質バランスを考慮して、製剤中の電解質の種類や濃度を調整し、これに腸管内での水分を保持するためPEGを加えたもので、糞便をより柔らかくして排出することができる。また、PEGが代謝、吸収されないため、そのまま体外に排出されることが特長である2)。体液のバランスを崩さず服用でき、身体への負担が少ないことから、近年主流となっている。
通常、成人の血液量は体重1kgにつき約80mLあるといわれている。血液は赤血球、白血球、血小板の細胞成分と、血漿と呼ばれる液体部分から成り立っている。血液全体のおよそ45%が細胞成分で、残りが血漿成分である。
献血などで集められた血液から作り出される医薬品を総称して血液製剤と呼び、輸血などに用いられる成分製剤(赤血球、白血球、血小板)と、治療などに有効な抗体や血液凝固成分などのタンパク質を精製した血漿分画製剤に分けられる。
『マクロゴール』は、血液から有用なタンパク質を分離・精製(分画)する際に用いられる沈殿剤にも用いられている。
血漿は性質の異なるさまざまなタンパク質成分約7~8%、水分約90~91%、その他糖や脂質などの成分より成る。このなかから、アルブミンなどの特に重要なタンパク質を物理化学的に分離し、成分ごとに精製したものを血漿分画製剤という。タンパク質は20種類のアミノ酸が縮重合したものであり、構成しているアミノ酸の種類や配列などで分子特性が変わる。そのうえ、血漿タンパク質の多くは糖鎖や脂質と結合して存在しており、分子特性をさらに複雑にしている。このため、血漿タンパク質の分画は、これらの分子特性、分子量、形状などに基づいて条件を変化させ分離・精製しなければならない。
分画法には①PEGがタンパク質を沈殿させる性質を利用したPEG分画法、②pH、イオン強度、エタノール濃度、タンパク質濃度、温度の5変数を変化させてタンパク質の溶解度を変え分画するエタノール分画法、さらに③クロマトグラフィーによる分画法がある3)。
PEGは誘電率を低下させるだけでなく、排除体積効果によりタンパク質を沈殿させる。その作用機構を図5に示した。タンパク質近傍のPEGが入り込めない領域とPEGが存在する領域の間に生じる浸透圧が駆動力となりタンパク質同士が接近し、それぞれ会合することで熱力学的に安定化しようとする4)。またPEGはタンパク質分子の変性を最小限に抑えて沈殿できることも利点として挙げられる。このように『マクロゴール』は医薬品製造時にも活躍している。
現在、日本には局方と薬添規があるが、医薬品製造のグローバル化に伴い、アメリカ、ヨーロッパを含む3局の国際調和が進められている。当社は、このような世界品質規格に対応した製品のラインアップを図り、日本はもちろんグローバルに医療分野に貢献していく。また、近年の医薬品の高度化に伴い、ニーズに合った医薬品添加剤開発や、さらなる高品質化を進めていく。
1)日本医薬品添加剤協会編:『医薬品添加物事典2000』(薬事日報社,2000)
2)Davis GR, Ana SCA, Morawaski SG et al:Gastroenterology
3)森勢裕:『血漿分画製剤の製造方法とは?』一般財団法人 日本血液製剤協会ホームページ http://www.ketsukyo.or.jp/study/ vol02_04.html(2018/11閲覧)
4)吉澤俊祐、白木賢太郎:「生物工学」93巻5号,(2015),260-263
・当社の『マクロゴール』は製造専用医薬品です。試験研究用サンプルや局方品が必要な場合は、試薬メーカーもしくは局方品メーカーにお問合せください。