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三洋化成ニュース No.533
2023.01.09
本連載を長く読まれている方であればもうご理解いただけていると思いますが、怒りは人に必要で、なくすことのできない感情です。どんなに穏やかそうに見える人であっても怒りの感情はあります。
なぜなら、怒りは自分の大切なものを守るために必要な防衛感情だからです。怒りがあることで自分が大切にしているものを守ることができます。
とは言え、怒りに振り回されたり、どうしようもない怒りにとらわれることもあったりと、怒りは持て余してしまう感情にもなることは間違いありません。
よく言いますが、ナイフそのものは悪いものではありません。正しい使い方をすればとても便利なものです。一方で使い方を誤れば、自分や周りの人がけがをすることにもなります。
ではどうすれば、怒りをプラスなものとして扱うことができるのでしょうか。なくすことのできない感情であれば、どうにか上手に活用したいものです。
今回は怒りをプラスなものとして活用するための条件を解説します。
先の北京での冬季オリンピック、スノーボードで金メダルを獲得した平野歩夢選手は競技後のインタビューで「2本目の点数はちょっと納得いってなかったんですけど、そういう怒りが、自分のなかでうまく最後に表現できた」と語りました。
金メダル獲得の偉業が、怒りをエネルギーに変えられた背景も相まって世間から高く評価されたのは記憶に新しいところです。
平野選手には2本目が終わったところで二つの選択肢がありました。一つ目は納得のいかない評価に苛立ち、ふてくされ、万全ではない状態で最後の3本目に臨むこと。そしてもう一つが怒りをエネルギーに、より高いレベルでの演技を披露することでした。言うまでもなく平野選手は後者の選択ができました。
オリンピック選手のような人だからそれができたと言う声も聞こえてきそうですが、そうとも言えません。一流のアスリートが怒りに負け、反則をしたり、ラケットなどの道具を壊したりしている姿を私たちは何度も目撃しています。
一流のアスリートだからといって、必ずしも怒りをいつでもプラスなものに変換できるとは限らないのです。
では普段の生活、仕事のなかで怒りをプラスなもの、自分を動かせるようなものに変えることはできるのでしょうか。できるとするならば、どうすればよいのでしょうか。
怒りをプラスなものとして、武器として活用するために真っ先に考えなければいけないことは「自分がここにいる目的は何か?」を明確にすることです。
怒りに負けてしまう理由は自分が今そこにいて何をしなければいけないかを見失うからです。先ほどの怒りに負けたアスリートの例で言えば、試合中に考えなければいけないことは勝つことです。
反則をしたり、道具などを壊したりする行為は、勝つという重要な目的を差し置いてでも、怒りを発散したい、ぶつけたいという衝動に負けてしまっています。
試合に出場する場合に限らず、私たちの生活や仕事においても、常に目的はあります。あなたがそこにいて一番成し遂げなければいけないことは何でしょうか。どのような場面にいたとしても、怒りに我を忘れて行動してよいなんてことはありません。
あなたが怒りにとらわれた時、負けそうになった時、いつも次の質問を自分にしてください。
「今ここにいる本当の目的は何?」。
私たちは聖人君子ではありませんから、この先もどんなに意識をしたとしても怒りで失敗することはあるでしょう。
アンガーマネジメントを10年以上専門にしている私も、アンガーマネジメント的にいま一つだなと思うような怒り方をすることもあります。
怒りで失敗した時に大切なことは、怒りによって失敗をしたと気付けるかです。また、気付いた時にどのように考え、振る舞うことができるかです。
人に対してであれば素直に謝罪すること、自分に対してであれば必要以上に責めないことです。
怒りに限らず失敗を認めるのは怖いものですし、できればやりたくないことです。なぜならプライドが邪魔をしているからです。ただ、失敗を認めて傷付くようなものはプライドではなく見えです。
見えを脇に置き、目的意識を持つことが怒りをプラスな武器として活用するための大切な条件になることを忘れないでください。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。