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三洋化成ニュース No.535
2023.01.09
1905年5月、英王立協会の会合に招かれたイギリスの数学者であるデュードニー(1857〜1930)は、ビクトリア女王を前に「仕立屋さんのパズル」を披露しました。正三角形を四つの断片に切り分け、それらを並べ替えて正方形を作れという問題です。彼は、マホガニーの正三角形を図1左のように四つの断片に切り分け、それらを真鍮のちょうつがいで鎖状につないだ模型を使って(図1中)、鎖の上端を固定し、他端を時計回りに回転させると正三角形(図1左)になり、反時計回りに回転させると正方形になる(図1右)様子を実演し、女王を大いに喜ばせたそうです。
このように、図形Pをいくつかの断片に切り分けて鎖状につないだ断片の端の一つを固定し、他端を左右に回転すると、図形Pまたは図形Qを得る時、PとQを変身ペアと呼ぶことにします。
長らく、正三角形Pを正方形Qに変身させる切断の仕方を見つけるために有力とされてきたのが、Pのあるタイル張りとQのあるタイル張りをうまく重ね合わせて(図2a、2b)、どのPもQのタイル張りの境界によって分割される形状が同じになるような位置を探し出し(図2c)、PをQの境界に沿って切る(図2c)という方法でした。適正重ね合わせ法と呼ばれるこの方法で、今までにいくつもの変身ペアが見つけられています。
適正重ね合わせ法よりも、簡単に、変身ペアを作る簡単な方法があるので紹介しましょう。
⑴封が閉じている封筒を1枚用意してください。
⑵封筒には、おもて面とうら面の2面があります(図3)。
⑶封筒の4隅をA、B、C、Dとします。封筒のおもて面の4点A、B、C、Dに対し、図4の青線のように、どの点からどの点へも線をたどっていける経路(切断線)を描きます。
⑷次に、封筒のうら面の4点A、B、C、Dに対し、図5の赤線のように、切断線を描きます。赤線に沿って、うら面だけを切り開くとエビが現れます(図8)。
⑸封筒の両面それぞれに青、赤の切断線が描けました。そこで、封筒をまず、青線だけに沿って、おもて面だけを切り開いてみましょう。すると、魚が現れます(図6)。
⑹次に、魚を赤線に沿って4つの断片①〜④に切り分け、各点A、B、Cを共有する二つの断片のペア(①と②、②と③、③と④)をちょうつがいでつなぎ、断片の鎖を作ります(図7)。
⑺この鎖の上端を固定して反時計周りに回転すると魚が現れ(図6)、時計回りに回転するとエビが現れます(図8)。
⑻経路の赤線・青線の形状を変えれば、封筒から無数の変身ペアが作れます。
切り方を変えると、図9の鷹と鳩の変身ペアが作れます。鷹は、アメリカの政治家であるトーマス・ジェファーソンの発言以来、戦争の象徴とされ、鳩は平和の象徴です。鷹から鳩へ(戦争から平和へ)、願ってやまないこの頃です。
1946年 東京生まれ。数学者/理学博士。東京理科大学応用数学科卒業(1969年)、上智大学大学院数学科を修了後、ミシガン大学数学客員研究員、米国AT&Tベル研究所科学コンサルタント(非常勤)、日本医大助教授、東海大学開発研究所所長、科学技術庁参与、文部省教育課程審議会委員、NHKラジオ・テレビ講座講師などを経て、現在に至る。ヨーロッパ科学アカデミー会員(2007年)、日本数学会出版賞受賞(2016年)、コロンブス騎士勲章受章(2021年)。現在は東京理科大学の栄誉教授を務め、離散数学の研究と世界各地で数学啓発活動に尽力している。