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三洋化成ニュース No.526
2023.01.09
ここのところ、アンガーマネジメントという言葉を聞く機会が増えているのではないでしょうか。「アンガーマネジメント」でなくても、「怒った時は6秒待つ」という「6秒ルール」なら聞いたことがあるかもしれません。
アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで生まれた心理トレーニングです。当初は、軽犯罪を犯した人のための矯正教育プログラムとしての側面が強くありました。しかし、時代の変遷とともに一般化され、今では、企業研修、青少年教育、アスリートのメンタルトレーニング、一般的な人間関係のカウンセリングなど、幅広く転用されるプログラムになっています。
アンガーマネジメントの目標は怒らなくなることではありません。怒る必要があることに上手に怒り、怒る必要のないことには怒らなくて済むようになることを目指します。アンガーマネジメントという言葉をちょっと耳にしたことがある人の勘違いに、「怒ってはいけない」「怒らなくなるようになるための方法だ」といったものがあります。しかし、アンガーマネジメントでは怒ることそのものは否定していません。
怒りは人に備わっている自然な感情で、大切な役割を持っています。怒りは、別名「防衛感情」とも呼ばれています。怒りとは本来、自分が大切にしているものを守るための感情なのです。
動物にも怒りの感情があります。動物は、天敵などの脅威が迫った時、怒りの感情が生まれることで臨戦態勢になり、今目の前にある危険に備えるのです。
人の怒りも、基本的には同じものです。人が怒りを感じるその時、自分が大切にしているもの――例えば考え方、価値観、立場、家族、宝物――が危険にさらされている、と感じています。怒ることによって臨戦態勢になり、大切なものを守ろうとするのです。怒りは何とも厄介な感情です。怒りで後悔したことのある人は多いでしょう。「あんなふうに怒らなければよかった」「こんなことでいちいち怒ってしまう自分が嫌」。逆に、「あの時なんで怒れなかったんだろう」「もっと怒れたらどんなに気持ちが楽になったことか」などなど……。
例えば、子どもにきつく怒ってしまい、夜に子どもの寝顔を見ながら謝っている親はとても多いです。また、パワハラとされることを恐れて部下を怒れず、マネジメントできなくなり、頭を抱えているマネジャーもとても多いです。私たちは怒っても後悔しますが、怒れなくても後悔するのです。
では、アンガーマネジメントのメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
アンガーマネジメントを受講する人の目的は実にさまざまです。仕事のなかで活かすため、自分の成長のため、子育ての悩みを解決するため、人間関係を良くしたい、職場の皆で取り組みたい、などなど。
そして、受講後に多くの人が口にするのが、アンガーマネジメントを受講したことで、「気持ちが楽になった」ということです。
怒りとは、大切なものを守るために備わっている防衛感情である、ということを紹介しました。しかし多くの人は、本当は大切ではないものを、大切だと勘違いしています。つまり、過剰防衛ともいえる、いつも誰かから攻撃されるのではないかと警戒をし、攻撃されたと思えば、すぐに迎撃をするような心理状態になっているのです。
例えば職場で、自分がミスをしてしまうのではないか、そのことによって立場が悪くなってしまうのではないか、あるいは、誰かがミスをすることで、自分の評価が下がるのではないか、と気持ちを張り巡らせている状態です。
このように、四六時中いつでも戦う準備をしていたら、心が休まることはありません。アンガーマネジメントに取り組むことで、本当に大切にしなければいけないこと、それほど身構えなくていいこと、全く関わらなくていいことを分けられるようになり、余計なことに時間や労力を割くことがなくなります。その結果、気持ちが楽になったと感じる人が多いのです。
次回から、邪魔者扱いされがちな怒りの大切な役割、怒りが生まれる仕組み、どうすればアンガーマネジメントができるようになるのかなどを紹介していきます。アンガーマネジメントで、心穏やかに過ごせるようになっていきましょう。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。