MENU
三洋化成ニュース No.530
2023.01.09
キレる高齢者が話題となって久しいですが、果たして本当に高齢者は怒りっぽいのでしょうか。
令和2年版の警察白書では刑法犯検挙人員に占める高齢者の割合は平成元年の2.1%から令和元年の22.0%へと約10倍に増えていることが報告されています。高齢者の犯罪の主なものは万引き、占有離脱物横領、暴行、傷害です。なかでも暴行については高い増加率を示していることが報告されています。
暴行している人は怒りにとらわれているはずですから、警察白書から高齢者が怒りっぽくなっていると一定程度はいえそうです。
その一方で年を取ることで円熟味が増し少々のことでは気持ちが揺さぶられず、いわゆる丸くなる人もいます。イギリスのケンブリッジ大学の研究によると、人は年を重ねることで神経症的性格が低下し感情の処理が上手になり、同時に誠実性と協調性が高まるとしています。一体この違いはどこからくるのでしょうか。
高齢者が怒りっぽくなる理由としては、1.身体的な理由、2.社会的な理由、3.個人的な理由が挙げられます。それぞれの理由を見ていきましょう。
1.身体的な理由
加齢による脳機能の低下があります。前頭葉の機能が衰えることで感情を抑えることがうまくできなくなります。これまでは理性的に判断、対処できていたものが抑えが利かなくなり、感情的になったり、思わぬ暴言を吐いたりしてしまいます。
そのほかにも老眼になれば細かい字が見えなくなりイライラし、耳が遠くなれば聞こえないと怒ります。全体の動作は遅くなりますので、何をするにも時間がかかるようになり、そのことで人に当たることもあります。
2.社会的な理由
老後はこんなはずではなかったという思いです。若い頃、身を粉にして働けばリタイアしてからは悠々自適な暮らしが待っているはずでした。ところが年金行政のほころびが現実のものとなり、期待していたほどの年金は得られません。日本の成長を支えた自分たちは若い世代から尊敬こそされ、疎ましく思われるなどあってはならないことでした。ところが老害、既得権益と邪魔者扱いをされるようになっていることに大きな不満を持っています。
3.個人的な理由
執着、孤独感、自己顕示欲の三つのキーワードが挙げられます。
これらの三つのキーワードが強いと怒りっぽくなり、果ては老害と呼ばれる可能性が高くなります。順番に説明していきます。
まず執着です。過去の成功体験、愛着への執着は高齢者を怒りっぽくさせます。一般的にいえば、人は年を取るごとに柔軟性が失われ、変化すること、新しいことに挑戦するのが億劫になります。なぜなら今までのやり方である程度はうまくいっているからです。危険を冒してまで変化を望みません。
過去の成功体験は自分が大切にしている心のよりどころです。自分の正しさを証明するためのものともいえます。
世の中は日々変化をしていきます。本人が望まなくても嫌でも変わります。執着の強い人はその変わることへの抵抗として怒るのです。
次に孤独感も高齢者を怒りっぽくさせるものです。孤独感の強い人は誰かに認めてほしい、受け入れてほしいと思っているので、認めてもらうために余計なことをします。余計なこととは、首を突っ込まなくていいようなことに出張っていき口を挟むようなことです。
孤独感の強い人にとって一番怖いことは無視されることです。無視されればより孤独感は強まります。その恐怖感にさいなまれないように無用の口出しをします。
そして自己顕示欲です。自己顕示欲は自分のことを認めてほしいがあまり、周りに対して過剰ともいえる自己主張をすることです。年を取れば社会のいろいろな役割から降りていきます。ところが自己顕示欲の強い人は、そこに強い抵抗感を覚えます。自分の存在が社会の中で小さくなることが許せないのです。
ここに紹介した執着、孤独感、自己顕示欲は誰もが少なからず持っている老害因子です。あなたのなかではどれが大きそうでしょうか。思い当たる節はあるでしょうか。
どうせなら老害と呼ばれるのではなく、年を重ねるに従って感情の処理が上手になり、同時に誠実性と協調性が高まっていくような年の取り方をしたいものです。また、誰しも年を取って体の機能は衰えていくものです。時代を築いてきた高齢者の方々に対して、周囲が寛大に接することも優しい社会をつくっていくために大切ですね。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。