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三洋化成ニュース No.531
2023.01.09
海外に比べて日本のサービスは低価格で、過剰ともいえる品質として知られています。これだけのサービスを受けてチップがないことに驚く外国人もいるくらいです。
「お客様は神様です」とは故三波春夫さんの言葉として知られています。この言葉を受けて、お客様は神様であるから、お客様の言うことは何でも聞かなければいけない、お客様のほうが正しいといった態度に出る人がいます。
ところが今の世の中で使われているような意味は真意ではないと、三波春夫さんの公式サイトでは説明されています。
こうした人は以前は悪質クレーマーといわれていましたが、最近は「カスタマーハラスメント」という言葉が登場し社会問題化しつつあります。
私は2017年度、厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の委員を務めました。2018年3月に同委員会が発表した報告書ではカスタマーハラスメントについて次のように説明をしています。
〝顧客や取引先からの著しい迷惑行為が社会的な問題になっている状況を踏まえれば、顧客や取引先からの著しい迷惑行為の問題に対応するためには、事業主に対応を求めるのみならず、周知・啓発を行うことで、社会全体で機運を醸成していくことが必要であるという意見が示された。〞
この報告書を受けて実際の現場から、具体的にどのように対策をすればよいのかと質問が相次いだこと、また従業員のメンタルヘルスに重大な問題を起こす可能性があることから、厚生労働省では2020年10月に、カスタマーハラスメントの企業向け対策マニュアルを策定するとの方針を発表しました。
国がカスタマーハラスメント対策に乗り出すほどの事態となっているのです。
労働組合の最大手の一つであるUAゼンセンが行った2020年悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査によると、迷惑行為をしていた人の74.8%が男性で、推定年齢は40歳代以上で約9割という結果になっています。
行為としては、暴言、何回も同じ内容の繰り返し、SNSやインターネット上での誹謗中傷、長時間拘束、権威的態度(説教)などが挙げられています。
実はカスタマーハラスメントの行為者はサービス従事者が多いとの分析もあります。自分たちがサービス提供者であるからこそ、サービス提供者はこうあるべきという思いが強く、その思いからハラスメント行為に及んでしまっています。
怒りはとても連鎖しやすい感情です。SNSでも最も伝播しやすい感情は怒りであるという調査もあるくらいです。単純な話、職場や家庭で1人がイライラしていれば、あっという間にその空間はイライラで支配されます。
カスタマーハラスメントの加害者も実は店員、顧客対応窓口、看護師、介護士など、反撃をされそうにない相手を見つけて日頃の鬱憤を晴らしている可能性が多分にあります。
先に書いたようにカスタマーハラスメントの加害者はサービス従事者が多いと分析されていますが、自分たちが受けた怒りをどこかへ持ち運んで八つ当たりしている可能性があるのです。
このような負の連鎖が起きていてはみんなにとって住みやすい社会とは決していえません。
以前からもカスタマーハラスメントのような問題はありましたが、こうした問題があると知るだけでも、社会全体にこういう問題を放っておいてはいけないという機運が醸成されていきます。
機運が醸成されたからといってすぐに解決できるような問題ではありませんが、意識を持たないことには解決に向けて動きません。
ちなみに「パワーハラスメント」という言葉は日本では2001年に生まれましたが、いわゆる「パワハラ防止法」が施行されたのは2020年です。
読者の方のなかには、初めてカスタマーハラスメントという言葉を知ったという方もいらっしゃるかもしれません。あるいは言葉としては知っていても、厚生労働省も動くほどの問題にまでなっているとは思っていなかったかもしれません。私たちの日常にある問題として、これから意識をするきっかけになれば大変うれしいです。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。