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人工腎臓用ウレタンポッティング材

三洋化成ニュース No.540

人工腎臓用ウレタンポッティング材

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2023.09.14

バイオ・メディカル事業本部 バイオ研究部 医療機器研究グループ

ユニットチーフ 近藤 伸哉

[お問い合わせ先]
バイオ・メディカル事業本部 営業部

 

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腎臓は毒素を尿として排出するなど生命維持に欠かせない多くの機能を担っている。腎不全などの病気によって腎臓機能が大きく低下した患者は、体内の老廃物や過剰な水分を取り出すために人工透析(血液透析)が必要となる。人工透析を必要とする患者は年々増え続けており、日本透析医学会統計調査によると、日本では2021年末で約35万人まで増加している。それに伴い透析に使用される人工腎臓の需要は年々高まってきている。本稿では、従来に比べてより短時間で硬化できるように開発した当社の人工腎臓用ウレタンポッティング材について紹介する。

 

人工腎臓とは

腎臓は、体内の老廃物や過剰な水分を排泄する、血液が酸性へ傾かないよう電解質を調節する、ホルモンを分泌するなど多くの機能を持つ重要な臓器であり、これらの腎臓機能が低下すると、腎臓の代わりに血液を浄化するものが必要となる。血液を浄化するにはさまざまな方法があるが、最も広く使用されている方法が人工透析である。人工透析は血液を一度体外に取り出し、血液中の老廃物や過剰な水分を除去したのち再び体内に戻す方法で、これに使用される透析器(ダイアライザー)を一般に人工腎臓と呼ぶ(図1)。

 

代表的な人工腎臓は長さが30cmほどの筒状になっており、プラスチック製のケース(ハウジング)の中に髪の毛数本分ほどの細さの中空糸とよばれる糸が約1万本も入っている(図2)。中空糸はストローのように中心部に穴があいたもので、その穴の中を血液、糸の外側を透析液(体液に近い濃度の電解質の水溶液)が流れる。さらに、この糸は小さな分子は通すが大きな分子は通さない微細な穴を有する半透膜でできており、この膜を介して、体から取り出した血液と透析液を接触させ、大きな分子である血液中の血球や有用なタンパク質などは透析液側に通さずに、分子が小さい尿素・尿酸などの老廃物や余分な水分のみを透析液側に送り出す。人工透析では、血液を連続的に中空糸に通すことによって、体内の血液を浄化している。

 

人工腎臓用ポッティング材

人工腎臓に使用する中空糸の両端部を束ね、この両端部とハウジングを固定する接着剤が人工腎臓用ポッティング材である。人工腎臓用ポッティング材は患者の血液に触れるため、血液適合性や高い安全性が求められる。人工腎臓用ポッティング材としては、イソシアネート成分とポリオール成分からなる2液タイプのウレタンポッティング材が主流である。これはウレタンが血液適合性や中空糸およびハウジングとの接着性に優れるよう設計しやすいだけでなく、適度な硬度・柔軟性・強度を有しているためである。また原料となるイソシアネートやポリオールも低粘度であり、温和な条件で反応・固化できることも理由の一つである。

安全性および使用実績の観点から、現在ウレタンポッティング材は主に表1に示すような組成で構成されている。これ以外にポリオール成分には触媒作用のある物質が配合される。海外ではスズ(Sn)触媒を使用している場合もあるが、国内では安全性重視の観点から金属触媒は使用することができないため、代わりに硬化反応を促進する機能を持つアミノ基含有ポリオールなどが使用される。

 

ポッティング材の成型方法と求められる機能・物性

ポッティング材を用いた人工腎臓の成型方法は次のとおりである(図3)。①主剤(イソシアネート成分)と硬化剤(ポリオール成分)を2液混合機で混合する。②中空糸をハウジング内に入れ、遠心回転させながらハウジング両端部に混合液を注入し成型する。③遠心成型後に取り出して養生する。④中空糸を開口するために不要部分を切断し、キャップを付け水洗後、包装する。その後、滅菌工程を経て最終製品として病院で患者に使用する。

 

中空糸をしっかりと束ね、ハウジングに接着固定するためには、両端部の中空糸にのみ均一にポッティング材を浸透させなければならない。そのためにはできるかぎり低粘度かつ増粘速度の遅いポッティング材が好まれる。その一方で、粘度が低く増粘速度が遅すぎるとポッティング材が中空糸の穴から中空糸内部にまで入り込み、不要部分を切断しても閉塞部分が残ることで不具合が発生する場合がある。したがって反応固化時の粘度と増粘速度のバランスがポッティング材開発の重要なポイントとなる。

 

当社ポッティング材について

当社ではこれまで培ってきたウレタンに関する技術や知見を生かし、人工腎臓用ウレタンポッティング材『ポリメディカ』シリーズを開発、販売してきた。『ポリメディカMA-130 / MB-130』は当社の汎用的なポッティング材であり、適度な粘度と増粘速度を有し、かつ安全性が高い材として好評を得てきた。

近年、腎機能が低下した患者数の増加に伴い、人工腎臓の生産性の向上に対するニーズが高まっている。生産性の向上には、中空糸間への充填性を向上するための低粘度化と、切断までの養生時間を短縮するための高速硬化が必要である。一般に高速硬化させるためには硬化促進作用のあるアミノ基含有ポリオールの含有量を多くする方法がとられているが、その方法では注入の際の混合液の粘度が高くなる、可使時間(混合液を注入できる時間)が短くなるなど、注入時の作業性に問題があった。このように、低粘度と高速硬化は相反する特性であったが、当社はこれまで培ってきたポリオール設計技術により、低粘度かつ高速硬化を両立させることに成功し、『ポリメディカMA-6002 / MB-6002(開発品)』を開発した。

図4に『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』の硬化挙動のイメージ図を示す。横軸は人工腎臓の生産工程時間、縦軸はポッティング材の硬化度である。なお、硬化度については、ゲル化までは粘度、ゲル化後は硬度を参照した。青線を従来のポッティング材、赤線を高速硬化品の『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』で示した。赤線のほうが混合後の粘度が低く、浸透性に優れる。また、硬化が速いためより短時間で切断可能な硬度に達する理想的な挙動を示す。

 

実際に当社従来品『ポリメディカMA-130 / MB-130』と比較した場合の性能・物性および硬化挙動を表2、図5に示す。『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』は、当社従来品と比べて混合後粘度が低いにもかかわらず、ゲル化後の硬化が速く、生産性が向上することがわかる(表2、図5)。低粘度と高速硬化を両立させた『ポリメディカMA-6002 / MB-6002』は、人工腎臓の生産性の向上に大きく貢献できる。表2にはその性能と物性値を示した。これらはいずれも代表値であり、注型・流動性、成型条件など顧客ごとの条件に合わせたカスタマイズも可能である。

 

 

今後の展開とアクション

当社のポッティング材は中空糸両端部とハウジングの固定用として人工腎臓用途に適しているが、同様の構造を持つ家庭用浄水器や工業用大型浄水器のポッティング材としても使用可能である。また、環境汚染や毒性の観点から金属触媒を使用しておらず、当社の触媒設計技術を駆使した金属フリーの触媒を使用しているのも『ポリメディカ』シリーズの特長である。今後は、生産性の向上に加え、ポッティング材からの溶出物量を減らすなど、さらなる安全性の追求が求められると予測されており、硬化速度だけでなく、安全性の面でも開発が進んでいる。『ポリメディカ』シリーズは、安全で質の高い製品を提供し続けることでSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献する製品である。今後もさらに良質な製品を、日本はもちろん世界の国や地域にも広げ、人々の健康な暮らしに貢献していく。

 

参考文献

  1.  岩田敬治編『ポリウレタン樹脂ハンドブック』日刊工業新聞

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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