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三洋化成ニュース No.542
2024.01.19
インプリントリソグラフィは、物質の表面に微細なパターンを転写し、さまざまな機能を持たせる加工技術です。
単純なプロセスで、加工精度の高い微細な加工を大きな面積に施せることから、さまざまな分野で注目されています。
この高精度な微細加工を可能にするUV硬化樹脂を紹介します。
インプリントリソグラフィは、フィルムなどの基材の表面に樹脂を塗布し、金型を押し当てて固めることで表面にさまざまなパターンを成型する技術です。樹脂を固める方法には、熱を加えて固める熱インプリントと光を照射して固める光インプリントがあります。
熱インプリントは樹脂を熱で溶かして基材に塗布し、金型を押し当ててから冷却するため、固まるまでに時間がかかります。一方の光インプリントは、樹脂を基材に塗布して金型を当て、光(主に紫外線)を照射することで固めます。露光は数秒と短時間で固まるうえ、熱インプリントのように高熱をかける必要がないため、使用するエネルギーが少ないメリットもあります。また、熱インプリントに用いられる熱可塑性樹脂は粘度が高く、金型の凹凸の隅々まで入りこむことは困難ですが、光インプリントに使用するUV硬化樹脂は粘度が低く、より微細なパターンの成型が可能です。
現在こうした微細加工の技術としては、感光性の樹脂などを塗布した表面を、パターン状に露光、現像して固めるフォトリソグラフィが代表的です。一方、光インプリントは、現像工程が不要で金型を押し当てて光を照射するだけの単純なプロセスのため、簡易な装置で加工でき、大面積加工も容易で、工程短縮と低コスト化につながります。また、現像工程が不要なため、余分な樹脂や現像液などの廃棄がなく、環境性能にも優れています。さらに、フォトリソグラフィでは困難だった曲面などの非平面へのパターン成型や、高アスペクト比構造、3次元構造などのパターン成型も可能です。これらのメリットから、微細加工が必要な分野では光インプリントの需要が拡大しています。
光インプリントが最も多く使われているのが光学フィルムです。
光学フィルムは、テレビの液晶画面やスマートフォンのタッチパネルなど、さまざまなディスプレイに使われている材料です。フィルム表面に、ナノレベルの微細な加工を施すことで、光の通過や反射、吸収といったさまざまな機能を持たせています。ディスプレイは、これらの機能を持った複数の光学フィルムを重ね合わせることで、画像や映像をより美しく、鮮明に見せています。
光を照射することで固まるUV硬化樹脂は、この光学フィルムの微細なパターンを加工するためには欠かせない材料になっています。
三洋化成では2000年代からインプリント用UV硬化樹脂の開発に着手し、需要拡大に伴い、グレードを取り揃えてきました。こうした開発で蓄積した知見をもとに、2010年頃に上市した製品が『サンラッド』シリーズです。
インプリント用のUV硬化樹脂に求められる一番の機能は、ナノレベルで割れや欠けのない細かいパターンを正確に転写できることです。それには樹脂が基材に密着する「密着性」と、金型から離れる「離型性」とのバランスが重要になります。
『サンラッド』の特徴の一つがこの離型性の良さです。UV硬化樹脂には、金型から樹脂を離れやすくするための離型剤が含まれています。離型剤は、通常であれば金型側だけでなく、基材側にも作用するため、離型性を強くすると樹脂が基材から剥がれてしまう事態も起こり得ます。一方『サンラッド』に含まれる離型剤は、特異的に金型側にのみ働くよう設計されているため、金型から離れやすいにもかかわらず、基材からは剥がれにくくなっています。そのため、高価な金型にはダメージをほとんど与えず、多彩なパターンを、割れや欠けなどがなく正確に転写できる特性を持っています。
また、傷回復性(耐擦傷性)にも優れているため、成型したパターンに傷がついたり倒れたりしても、数秒で元通りになります。これにより高い歩留まりを可能にし、信頼性も向上します。さらに近年は、LED光源にも対応するなど、省エネルギーにもより貢献しています。
こうした製品特性もさることながら、三洋化成はお客様のニーズに合わせてカスタマイズをすることで、他社製品との差別化を図っています。電子材料ではどうしても細かい調整が必要になるうえ、製品の進化によって求められる性能も変わってきます。
現在は、さらなる環境負荷低減に向け、樹脂の使用量も減らすことができる、インクジェットに適したUV硬化樹脂『ネオジェット』も開発しています。
無溶剤で、使用する樹脂のロスが少なく、省エネルギープロセスで加工できる環境面に優れた光インプリントは、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標12「つくる責任 つかう責任」などに貢献しており、今後ますます需要が拡大すると考えられます。三洋化成では、新たなニーズに対応できるようさらなる高性能化を図りつつ、光インプリントの新しい用途開拓も視野に、今後も開発を進めていきます。