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三洋化成ニュース No.547
2025.04.11
乳化は水と油のように混じりあわず分離してしまうものが均一になる現象です。この現象を起こす乳化剤としては界面活性剤が一般的ですが、これを使用しないピッカリング乳化という技術があります。これまでのピッカリング乳化剤の課題を克服した画期的な製品を紹介します。
乳化は、化粧品をはじめ食品や医薬品など、あらゆる分野で利用されている現象です。乳化していないと水と油は分離してしまうため、例えば化粧品なら製品の機能や使用感が保てなくなるといった不具合が起こります。
乳化剤には、一般的に水や油に溶ける性質を持つ界面活性剤が使用されています。乳化した物質はおおむね乳白色の液体となりエマルションと呼ばれますが、界面活性剤を使えば、簡単かつ安価に微細なエマルションが得られ、乳化物としても安定するという特長があります。
乳化の状態は、使う材料や投入順によってもかなり変化しますが、界面活性剤はその種類も多く、長年の研究によって多くの知見が確立されているため、使いやすいというメリットもあります。
一方で、乳化時に複数の界面活性剤を使用しなければならないことや、化粧品の場合はべたつきやぬるつきの原因になること、水と混じりやすいため汗で再乳化してしまってメイクや日焼け止め成分などの肌上でとどまってほしい成分が流れやすくなるといった課題もあります。
分子レベルで水と油をつなげる界面活性剤に対して、水にも油にも溶けない固体粒子を使って乳化させる技術がピッカリング乳化です。界面活性剤は水と油の界面張力を下げることでエマルションを安定させますが、ピッカリング乳化は水と油の間に固体粒子が並び、物理的に界面を仕切ることでエマルションを安定化させます。
また、界面活性剤は安定なエマルションを得るために複数のものを組み合わせることが多いのですが、ピッカリング乳化剤は一種類の固体粒子で乳化することができ、界面膜の厚みが固体粒子によって大きくなることから、より安定性の高いエマルションになるという特長があります。さらに化粧品分野では、界面活性剤特有のべたつきやぬるつきのない使用感が得られるとともに、界面張力を下げずに乳化できるため、肌上に形成した化粧膜は汗などによる再乳化の影響を受けにくく、成分が流れにくいというメリットもあります。
ピッカリング乳化剤はこのように非常に優れた乳化方法でありながら、界面活性剤での乳化技術が広く確立されていたため、新しい手法に切り替えるにはハードルが高く、これまであまり開発は進んでいませんでした。また、小さな固体粒子を使っているため、化粧品においてはきしみや指どまりが出ること、適用できる油種が限られるといった課題もありました。
三洋化成が新しく開発したピッカリング乳化剤『ソリエマーⓇ』は、化粧品でのピッカリング乳化において、課題とされてきたきしみや指どまりを改善するとともに、乳化性、安定性、使用感の全てを向上させた乳化剤です。
従来のピッカリング乳化剤は、粒子が小さく形状もいびつだったため、これがきしみの原因になっていました。『ソリエマーⓇ』はこの粒子の粒を大きくし、形状を球体に整えて表面処理を施すとともに、最適な乳化法も併せて開発することで、これらの課題を克服しています。また、水と油、双方へのなじみやすさも最適化しているので、化粧品で使用するほとんどの油種への対応が可能です。
水の中に油が分散している水中油型のエマルションでは、粒子径が大きくなればみずみずしい使用感を得られることが知られています。『ソリエマーⓇ』を用いたエマルションは、界面活性剤を使ったエマルションの粒子径と比較しても大きいため、きしみがなく、滑らかでみずみずしい使用感が得られます。
界面活性剤でも同じ大きさの粒子径にはできるのですが、乳化の安定性が悪く、実用性はかなり低くなります。一方『ソリエマーⓇ』は、長時間の安定性試験においても、乳化物の分離が見られず、高い安定性が確認されています。
『ソリエマーⓇ』は、水中油型のエマルションであればどんな商品でも適用可能な乳化剤です。なかでも日焼け止めや化粧下地、ハンドクリームなどに活用すると、その効果をより実感することができます。
化粧品業界では、消費者の多様なニーズへの対応はもとより、新原料の開拓にも力を入れているといった背景もあり、『ソリエマーⓇ』のような新しい技術への注目が高まっています。
『ソリエマーⓇ』は現在、国内外の化粧品メーカーでサンプルテストが進んでおり、高い評価を得ています。なかには「ピッカリング乳化剤として、これまでで一番性能が良い」と言われるお客様もいらっしゃるほどです。複数のメーカーでは化粧品原料としての登録も進んでおり、研究開発部門とやりとりしながら、技術サポートや新たな提案も行っています。
『ソリエマーⓇ』は環境面でも優れており、風呂やシャワーで排水に流れても無機粒子であることから水質への影響は低いと考えられます。また製造時に加熱プロセスの必要がないため、CO2の排出量も低減できます。その意味でSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」や目標15「陸の豊かさも守ろう」に貢献できる製品といえます。
2025年度内の上市に向け、着々と準備が進んでいる『ソリエマーⓇ』ですが、将来的にはアジア、北米などにも販路を広げ、世界で使用される製品を目指します。