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三洋化成ニュース No.506
2018.01.10
私たちの生活において、日々の廃棄物の量は増加している。環境省のまとめによると2015年度の都市ゴミは約4,400万トンであり1)、平均で1日当たり12万トンのゴミが出ている。これらのうち一部は資源化されるが、大部分は焼却して灰に減容化した後、埋め立て処分される。また、都市ゴミだけでなく、石炭火力発電所のような燃焼炉からも同様の灰が排出され、いずれの焼却灰にもカドミウムや水銀といった重金属類などの有害物が濃縮した状態で含有されていることが知られている 2)。
重金属類に関しては、歴史的にも1950年代から70年代の高度経済成長期に、有機水銀汚染の水俣病やカドミウム汚染によるイタイイタイ病などの公害を引き起こした原因物質であることから、環境安全性の観点で、土壌や水質に関する厳しい規制が法律で規定されている。一般廃棄物、産業廃棄物を問わず、廃棄物中の重金属含量に規制がかかっており、さらにそれらの重金属が金属イオンとして水に溶出することが環境汚染につながるため、溶出量も厳しく規制されている。そのため、廃棄物はいくつかの規定された方法に従って、適切に処理されなければならない。
本稿では、重金属の溶出を防ぐために用いられる重金属固定化剤『アッシュフィックス PF-245』について紹介する。
ゴミを燃やすと、燃やした時に出る燃え殻として焼却炉の炉底から排出される焼却灰と、焼却に伴って舞い上がる細かい灰(飛灰、ばいじんともいう)が発生する(図 1)。これらの焼却残渣には重金属が含まれているため、そのままでは二次利用や埋め立て処理ができない。重金属が雨水などで土壌や地下水に溶出すると人や環境に影響を与えるため、現在では重金属の溶出を防止するよう適切な処理が行われている。
焼却残渣には、規制対象であるカドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀などのほかにも銅、亜鉛、鉄、マンガンやホウ素、フッ素などが含まれている2),3)。
焼却灰の組成や性状は燃焼物に依存するため、画一的に把握はできないが、一例として、都市ゴミ焼却残渣の重金属の種類と含有量については表 1のような報告がある 3)。
焼却残渣は二次利用や埋め立ての前にそれぞれ処理が行われる。
焼却残渣のうち、焼却灰は1,200℃以上の高温で有害なダイオキシンを無害化するとともに溶融され、ガラス状に無害化される。この溶融物は溶融スラグとして土木・建築資材に有効利用したり、溶融メタルとして資源化される。高温で燃焼・溶融するため、カドミウム、水銀、鉛などの沸点の低い金属は排ガス中に揮散し、溶融飛灰となる5)。従って飛灰には、焼却時に発生する飛灰のほかに、焼却灰の溶融処理時に発生する溶融飛灰も含まれる。重金属、特にカドミウム、鉛、水銀など沸点の低い重金属が濃縮され、焼却灰に比べて重金属の含有量が多いという特徴がある。そのため飛灰は1991年の廃棄物処理法改正に伴い特定有害廃棄物に指定され、適正な処理を行うことが義務付けられた。飛灰の埋立基準は廃棄物処理法に定められている(表 2)。処理後の飛灰は、地下に浸透しないように処置が行われた廃水処理装置を有する管理型処分場や、コンクリートでふたをする遮断型処分場に持ち込まれる。
飛灰に含まれる重金属を処理する方法(固定化)としては、化学的に安定化する方法(安定化処理)と固化する方法(固化処理)がある(図 2)。
化学的に安定化する方法としては、薬剤処理や酸抽出処理、固化する方法としてはセメント固化や高温溶融でガラス化する方法がある。
薬剤処理における重金属固定化剤は有機系と無機系に大別される。有機系ではキレート作用による固定化が主流である。キレートとはその語源であるラテン語の「蟹ばさみ」を意味するchelaにあるように、金属イオンと特異的に結合する複数の元素を有するキレート剤が、金属イオンを挟み込むように形成した錯体のことである。キレート化によってさまざまな金属の特徴を変化させることができ、飛灰処理においては重金属を封鎖・安定化し、水に不溶化する。
無機系では、酸化鉄などへ物理・化学吸着することによる不溶化やリン酸系、炭酸系などによる難溶化がある。酸抽出処理は、酸で重金属を溶出させたうえで溶出液中の重金属を水酸化物や硫化物などの化学的に安定した状態にする方法である。セメント固化はセメントに均質に練り混ぜて固化する方法で、古くから行われている処理方法ではあるが廃棄物の減容化は期待できない。高温溶融固化は焼却灰と一緒に溶融処理するため、常に一定の飛灰が発生する。
これらの処理方法のうち、薬剤処理、なかでもキレート化による方法は、固定化効果が高いことに加え、既存の設備を大幅に改良する必要がなく、省電力、省燃料、処理時間が短く処理工程が簡単などの特長があり、採用例も多い 7)。
キレートの安定性や水溶性などの物性はキレート剤の種類によって異なる。重金属処理で用いられるキレート剤としては、幅広い重金属に対して安定化効果が高いジチオカルバミン酸基を有するキレート剤が主に使用されていた(図 3)。しかし、飛灰のキレート剤処理においてキレート剤が分解し、二硫化炭素などの有毒ガスが発生する事例があったため、作業環境改善や分解しにくいものの開発などの対策が求められた 8)。
『アッシュフィックスPF-245』当社の『アッシュフィックスPF-245』は、図 4に示すように分子内に二つのジチオカルバミン酸基を有する化学物質であるが、ピペラジン系の構造を有しているため、分解しにくく臭気が少ない。そのため、キレート化による薬剤処理に有効である。また、処理時の水溶液のpHを12以上に調整しなければいけないという条件付きではあるが、飛灰と混練した際でも二硫化炭素、硫化水素、アミンなどの有毒ガスがほとんど発生しない(図 5)。
重金属がイオン状態(Mn+)で存在する水溶液に『アッシュフィックス PF-245』を添加すると、速やかに重金属イオンとのキレートを形成する。このキレートは水溶性が低いため、水に不溶の懸濁物として析出する。
銅水溶液に『アッシュフィックス PF-245』を添加した場合の様子を示す(写真 1)。添加後の写真では明らかに析出物の生成が観察できる。
実際の飛灰処理では、捕集された飛灰は、ストックタンクに集められ、送粉機で混練機にフィードされ、混練機で『アッシュフィックス PF-245』と水とともに混練されることで飛灰に含まれる重金属がいったん水中に溶解する。溶解した重金属と『アッシュフィックス PF-245』は即座にキレートを形成し、不溶化するため析出する。析出した重金属はピットに貯蔵され、最終処分場に向け搬出される。『アッシュフィックス PF-245』は水に不溶な安定したキレートを作るため、最終処分場でも重金属はほとんど溶出することなく固定化することができる。一例として鉛含有量が857mg/kgの飛灰に対して『アッシュフィックス PF-245』を混合した場合の結果を図6に示す。『アッシュフィックス PF-245』は少量の添加で鉛の溶出量低減効果を発揮する。
『アッシュフィックス PF-245』は、その作用原理により、飛灰だけでなく廃水中の重金属処理にも使用できる。例えば、前出の管理型処分場における廃水処理や、重金属類を含む廃水が発生するメッキ産業や金属加工廃水のより高効率な廃水処理への応用なども考えられる。
最終処分場の確保、残余年数の増加は社会的な課題となっており、そのためには廃棄物を無害化したうえで、埋め戻し材、路盤材などへリサイクルすることが望まれる。
最近ではいったん、管理型処分場に埋め立てた後、一定期間経過後、再掘し、無害化物として別の処理場や土木資材に利用されるなどの試みもなされている。当社では、これらの課題に対応する技術開発を進め、資源の有効利用や廃棄物量の抑制、環境保全などに貢献していく。