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実験を通して子どもたちに知る喜びを伝えていきたい

三洋化成ニュース No.496

実験を通して子どもたちに知る喜びを伝えていきたい

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2016.06.03

サイエンスパフォーマー かがくのおねえさん すずき まどか〈すずき まどか〉

東京都生まれ。美術系大学在学中から都内にある科学館で科学者の補助を行い、科学の面白さに夢中になる。

卒業後、科学技術館に勤務し、各展示室ワークショップコーナーの実験講師のほか、2007年からは「かがくのおねえさん」として日本全国で実験ショーや実験教室に出演。何百回にも及ぶ活動のなかで子どもの心の捉え方を会得する。2015年7月に独立し、子ども向けショーのほか、児童幼児指導者向けの科学遊びの講演を行っている。

 

写真=本間伸彦

世の中にあるさまざまな事象を研究する科学。子どもの時から科学に親しむことで、わからないことを自ら解明しようとする研究心や探究心が育つといわれています。「かがくのおねえさん」として全国各地を回り、実験を通して子どもたちに科学の面白さ、知る喜びを伝えているすずきまどかさんに、活動への思いをお聞きしました。

子どもの心をつかむコツ

-- すずきさんは「かがくのおねえさん」として活動されていますが、まず、「かがくのおねえさん」のお仕事をご紹介くださいますか。

2007年から科学技術館の各展示室にあるワークショップコーナーの講師を務め、全国の科学館や小・中学校、催し物会場で実験ショーや実験教室を行ってきました。現在はフリーの立場で「科学の面白さ」や「知る喜び」を伝える活動をしています。

-- 先日、子どもと科学技術館へ行ってきました。一つ目の実験はわかりやすくて、先生も優しく話しかけてくださっているのに、早々にプイってなってしまって。子どもの心をつかむコツは何でしょうか。

私はあなたのことを見ていますよ、という認識を持って、左から右、手前から奥まで全員の顔を見るんです。コツは目をそらされてもめげずに一生懸命見ること。ちゃんと見ていますよというのが伝わると子どもは逃げません。

-- テレビを観ている時と同じですね。一方的に向こうがやっていると思うから、興味がなければチャンネルを変えてしまう。

その流れで言うと、学校訪問は彼らの生活のなかに乗り込んでいってお話をするので完全アウェーです(笑)。興味のある子はどんどん前に来ますが、興味のない子は5、6歩引いた感じで何かやっているというように見ています。そういう子を動かしてみる。あえて「今おかしいなって思ったよね」と言うと、自分が疑問に思ったことをこの人は感じたんだな、と思ってくれるんですよ。そうすると気持ちがぐっとこちらに来るのがわかるので、そういう機会は大事にしていきたいなと思っています。

-- 運命の出会いをするかもしれない。実験で何か面白いと思ってくれると、理科や科学だけでなくほかの分野にもつながっていくということですね。

そうなんです。もう一つ、子どもたちの注意を引き付けるのに便利なのが、この白衣です。白衣を着て前に立つと、子どもたちが一瞬ハッとなって見る目が違ってきます。

-- 声も使い分けていらっしゃいますよね。私の経験では、高い声を使える人が子どもの心をつかめる気がするんです。すずきさんは高い声でまず呼びかけ、その後で低い小声で話しかけている。それがすずきさんの子どもの心をつかむコツのように思います。

科学の面白さを知り「かがくのおねえさん」に

-- すずきさんは子どもの頃から科学がお好きだったのですか。

私はまったくサイエンスとは程遠いところで学生時代を過ごしました。中学・高校・大学と文系です。高校は都立の芸術高校で油絵を描き、大学も美術大学で版画を専攻しました。でも実は版画ってサイエンスなんですよ。

-- え、版画がサイエンス!?

シルクスクリーンという版画の技法があり、化学繊維に特殊な化学物質である感光剤と乳剤を使ってインクが通過する穴を開けて、版を作ります。いわば科学の知識を使って作る絵画なのです。科学に関わることになったきっかけは、大学在学中に科学技術館で実験をしていたある科学者をテレビで知り、その人のお手伝いをさせてもらった時、本当に科学って面白いなと思ったことです。世の中の現象にはこんな秘密が隠れているんだとわかった時に、知ることってすごく面白いな、これを誰かに教えたいと思ったのが「かがくのおねえさん」の始まりです。

-- そこで科学の扉が開いたわけですね。

はい。ただ、私は美術を学んできたので、自分の得意なのは表現することだと思っています。研究者ではなく、あくまでもサイエンスの表現者ですから、サイエンスパフォーマーと名乗っています。

-- 「かがくのおねえさん」という名前はどうやって付けたのですか。

自分で考えました。やっていることは「実験の先生」なのですが、小さい子どもには先生より「おねえさん」の方が親しみやすいのではないかと。私は教えてもらったことを伝える側なので先生ではないという自覚もありました。

-- 確かに「先生」より「おねえさん」の方が、子どもたちにより近い存在であり、話しかけやすいですね。テレビでも、専門家に解説をしてもらうと言葉が難しすぎることがあります。教科書をそのまま説明するのではなく、わかりやすく楽しく興味を持ってもらえるように伝えるすずきさんのような人が本当に必要だと思います。いろいろなレベルの理解があるなかで、科学をわかりやすく伝えるにはどうすればよいのでしょうか。

私は、わかる子とわからない子がいたら、その中間にいる子に向けて話をします。わかっている子に「よく知っているね」と言ってあげると満足するし、わからない子にも「よくがんばってついてきたね」と褒めると顔が明るくなるのです。

-- 褒めてあげて小さな成功体験を積むことが大事なんですね。

子どもたちは二極化していて、勉強のできる子とできない子の差がどんどん開いています。中学生になると、科学に興味のある子とない子の両極端に分かれるのがつらいです。そうしたなかで宮城県の中学校で受けが良かったのが、静電気の実験の後に静電気を利用した放射線測定器を紹介した時でした。東日本大震災後で、女川原発も近くにあったので関心が高かったのでしょう。私の役割は、科学に興味を持つ子どもを増やし、科学のリテラシーを上げることだと思っています。

原理を気付かせる科学の力

-- 科学を学ぶことのメリットは何だと思われますか。

科学の知識を持っていると自分の身の回りに起こったことの理由付けができ、むやみに怖がることがなくなります。それは自分自身の生活のなかでも感じます。

-- 化学記号でも、試験のためだけに覚えようとすると苦痛で、試験が終わればすべて忘れてしまいがちです。しかし、実生活のなかにあることを実験を通して「これはこういうことだ」と気付くと、覚えなければいけないことではなくなるんですね。

暮らしのなかで科学が生きていることがわかるだけでちょっと楽しくなります。それを積み重ねていくと学習の習慣になるのではないでしょうか。ただ、今は技術がブラックボックス化して、どんどん難しくなっていて、それをどう解き明かしていくのかが課題だと思っています。子どもたちと日常の道具や現象が離れてしまい、あまりにも難しすぎて中をのぞいてみることができない。

-- 昔は時計やラジオを分解して組み立て直すことをやっていたようですが、今のスマートフォンを分解したら、とてもじゃないけど直せないですよね。

スマートフォンやテレビの中には技術がたくさん詰まっているので、それを知る機会があればどんどん参加してほしいです。そこをおろそかにすると、これから日本が科学技術立国を維持し続けるのは難しいように思います。

声の実験とアートを組み合わせる

-- 子どもたちが実験をして、プロセスや結果を生で見ることの意義は何でしょうか。

実験をすると、成功することもありますが失敗することもあります。どちらも大切な実験なんです。その現象を間近で見られるのは子どもたちにとって良い体験であり、それが発見や気付きに直結することを目の当たりにしてきました。例えば、音は空気が震えることで伝わるのですが、それが目でわかる実験があるんです。音が聞こえるメカニズムの話をしても、いまいちピンと来ないですが、そのことが目で見てわかる実験をすると、子どもたちがすごく理解してくれました。今日はその実験をお見せしようと思い、用意してきました。

-- わあ、見たいです。どうやってやるのですか。

おうちでも簡単にできますよ。用意するものは、洗面器とラップと赤いキャップの食卓塩。洗面器はボウルでも構いません。洗面器にラップを太鼓のようにピンと張り、そこに食卓塩を均一に振りかけます。食卓塩がサラサラして均一になりやすいので、おすすめです。この上から声を出してみますね。あ――――っ。

-- 塩が動いた!

声はのどの声帯が震えて口から震えた空気が飛び出すことで伝わります。その震えをラップがキャッチして、このような模様を作るんです。震えたところは塩がなくなり、震えないところに塩がたまります。そして音の高さを変えてみると、模様が変わったのがわかりますか?

音を可視化するための実験の様子

-- 本当だ。模様が違う。

音が低くなると震えが大きくなるので模様が大きくなり、反対に高くなると模様が細かくなります。ここまではよくある実験です。私の場合は、この模様にふわっとカラースプレーを吹き付けます。そして塩を払い落すと、塩が乗っていたところが透明、乗っていなかったところに色が付くというように逆版になるんです。

-- アートになっていますね。

このようにすれば声の実験結果をアート作品にすることができます。声の拓本なので「声拓実験」と名付けました。

-- 楽しいですね。こんなふうに声が伝わる仕組みがわかると、普通に話していても空気が震えているという実感につながるし、知識としても刻まれやすいですね。

それが実生活のどこに生きるのかははっきりと言えませんが、実験をして、知っていることが心の栄養にはなると思います。

-- 理科の勉強が直接生活の役に立つことは少ないかもしれないけれど、その仕組みや本質を知っていることや、その現象を見たという体験が喜びであり、人を支えているのでしょうね。

ふしぎラボでのサイエンスショー

科学に対する拒絶反応をなくしたい

-- 女性は理数系が苦手だという人が多いように思うのですが、子どもには理数系を苦手になってほしくないから、実験教室や科学教室に送り込んだりします。母親自身にそういう苦手意識があると、ちぐはぐになってしまっている気がします。

そういう場合はお母さんがちょっとがんばって、子どもの実験の話を聞いて、質問してあげるといいです。子どもに良い格好をしなければいけないとか、知らないことを恥ずかしいと思わないで、あえて質問してほしい。

-- そこで子どもが先生になれる瞬間があるわけですね。

親子のコミュニケーションにもなります。実験をして楽しかった気持ちを誰かに伝えたいと思いますよね。その気持ちをお母さんがくみ取ってあげて、子どもの話を聞いてあげる。ぜひそういうアプローチを親や周りの人がしてあげて、子どもたちのコミュニケーション能力を上げていく必要があると思います。

-- 実験や科学を学ぶことが面白いと思って科学を好きになり、理系に進む人がいて、ほかに面白いことがあって文系に進む人がいてもいいと思うのですが、その場合も嫌いと思わずに進んでほしいですね。私は理科の実験室がひんやりしていて苦手だったけれど、アルコールランプを消す時にカポッとかぶせるのはドキドキして好きでした。

そういう小さな好きをたくさん積み重ねて大きな好きになってくれればいいなと思います。そして、本当に理科が好きな子どもたちを温かく見守る人になってほしい。理科ができる子はガリ勉とかオタクとか言われたりするのですが、「すごいね」という目で周りが見るようになればもっと力を伸ばせるようになるかもしれない。そういう思いもあります。

-- そうやって尊敬し合う気持ちが大事ですね。すずきさんは、この活動を何年ぐらいやっていらっしゃるのですか。

大学を卒業してすぐに始めたので19年になります。幼稚園の時に科学の楽しさを伝えた子どもが高校を卒業して訪ねてきてくれたり、年賀状をくれたりするのはうれしいですね。

-- その子たちが自分の子どもを連れてくるようになるかもしれませんね。自分が素晴らしい経験をしたからこそ、わが子にも同じ経験をしてほしいと思うのは、うれしいことですよね。全国各地へ行っていらっしゃいますが、遠くに出かけていく楽しみは何ですか。

実験教室を見る機会がない子どもたちの所へ行ってお話ができることがすごく楽しいです。沖縄の離島や東北など、地方によって子どもたちの距離感が違うんです。沖縄の子は初めはすごく壁が厚いのですが、ちょっと話をするとすぐ手をつないでまとわりついてくる。東北の子はすごくシャイだけど最後に帰っていく時は楽しそうな顔で振り向いてくれて、楽しかったという気持ちが伝わってきます。普段、科学に触れることの少ない地方の子どもたちにも科学の面白さを伝えていくのが私の役割だと思っています。私の場合は、学校の先生と違って一期一会だけに、いかに聞いてもらえるか、必死になって伝えています。

-- これからやっていきたいことは何ですか。

科学の実験は面白い遊びを通じた学びでもあるので、これを教えられる人を育てていきたいと思っています。例えば、学童保育や保育園、幼稚園の先生たちに科学遊びの方法をお伝えして、小さい子どもに科学の楽しさを教えてもらいたい。そうした思いもあって現場を知るために保育士の資格を取りました。手間をかけずにすぐに支度ができて、すぐに遊べて、でも気付きがあるという科学遊びを提供できればと思っています。

-- 期待しています。本日は楽しいお話と実験をありがとうございました。

と き:2016年3月8日
ところ:東京・日本橋の当社東京支社にて

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