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三洋化成ニュース No.513
2019.03.01
朝起きるとカーテンを開け、眼前を流れる鴨川の向こうに見える大文字山(如意ヶ嶽)を眺めながら祈るのが日課です。京都の人は、送り火で何度もその山を見ることはあっても、なかなか登った経験がある人は少ないかもしれません。天気がいいと私はぶらりと出かけます。今日は哲学の道を出発点にスタートしましょう。
この辺りは、今は大変にぎやかで、日本人はもちろん外国人もたくさん来ています。しかし、銀閣寺を横目に少し進むと急に静けさが漂います。私はこの瞬間がとても大好きです。歩き始めるとすぐに八神社という神社が見えてきます。何気なく通ると見過ごしてしまいますが、大文字に登る前には立ち寄り心静めお参りしてください。鳥居の近くには南天がたくさん植えられています。「山登りの難を転じてください」という願いも込めて。
これまで何度も大文字山を訪れていますが、こうして登り始めるといつも最初に頭に浮かぶのは自然界とのつながりです。今はどこを見ても人間が作った人工物ばかりが目に入りますが、大文字山を歩きながら見る景色は自然のものばかり。耳を澄ませば水の音や鳥の鳴き声が聞こえる。山は二酸化炭素を吸収し、きれいな水を作り出し、動植物の生きる場所にもなっている。本当に私たちの生活に重要な役割を果たしてくれているということを実感します。
大文字の火床に着きました。ここから見る京都の景色は圧巻です。さらに、ひっそりとたたずむ弘法大師堂を横に眺めながら思うのは、改めて「人と人とのつながり」を感じさせてくれる場所だということです。なかでも大文字は「家族とのつながり」を強く思い起こさせます。毎年「大」の字に火が灯れば、手を合わせ、亡くなった祖父母や、父母のことを思い出します。曾祖父がスウェーデンからアメリカへ渡ったこと。そして私はアメリカから日本へと渡り、家族ができ、そこでさまざまな人と出会い、その時代のなかでつながって生きてきたこと。先日、アメリカに住む孫が来日した時、将来は日本に住みたいと言ってくれました。新しい世代も日本でどんどん人とのつながりを紡いでいきそうです。
しかし、京都の町を一望しながらもう一つのつながりを実感しました。それは、登山口に掲げられていた看板を読んだからです。この辺りは国有林で「世界文化遺産貢献の森」と名付けられているそうです。京都の町は歴史的な木造建築物が多く世界文化遺産が17もあります。その数々を維持するために、そして、私の大好きな京都の景観を守るために、森林の木材が大きな役割を果たしているという「山と京都に住む私」との深いつながりが感じられるのです。自然界と人間とのつながりはいつも実感していましたが、今日の大文字散歩は新発見でした。
最後に私が、毎朝唱えるお祈りをご紹介して終わります。
「宇宙ありがとうございます。銀河ありがとうございます。太陽ありがとうございます。月と星ありがとうございます。この地球ありがとうございます。空気と水があるおかげで微生物が育ち、動植物が育ち、人間が育ち、全てが愛に包まれています。全てのことに感謝します」山を下りるととても謙虚な気持ちにリセットされ、明日に向かって力いっぱい生きる勇気が湧いてきます。皆さんも力いっぱい生きてください。