MENU
三洋化成ニュース No.514
2019.05.01
自分がよく知っている場所だと思っていても、人を案内すると新しい発見があります。このことに気付いたのは私がまだ同志社高校の教諭をしていた40年ほど前。高校生や大学生を自分の生まれ育ったアメリカ・サウスダコタ州に毎年連れていくようになってからです。だから今となっては、同じように外国人や他府県の日本人を京都案内に連れていき、私自身が新しい発見をするということがとても楽しいんです。
先日、京都外大生を連れて、嵐山周辺を歩く機会がありました。国際フォーラムでマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、ラオスの学生と先生たちが来日するので、案内する学生を下見に連れていきました。阪急嵐山駅で集合してまず向かったのは法輪寺。法輪寺は713年に建立された真言宗のお寺ですが、京都の人にとっては子どもが数え年で13歳になると連れていく十三まいりで最も知られているでしょうか? 長い階段を上ると虚空蔵菩薩像が奉納されている本堂が見えてきます。すると、階段を上っている途中で学生が「エジソン!」と口にしました。私もそれまで気付かなかったのですが、法輪寺に祀られている虚空蔵さんが雷と関係があるので、電気に関係しているエジソンのレリーフが飾られていました。自分と違う目を持つ学生と一緒に来ると新しい発見がいっぱいあります。
法輪寺には京都市内を一望できるおすすめの展望台があるのですが、そこで学生からこんな疑問が飛び出しました。「なぜ、嵐山は嵐山というのか?」。そういえば、京都に50年住みながら地名についてあまり考えたことがなかったので、法輪寺のご住職に尋ねてみました。もちろん諸説あるということが前提ですが、日本書紀に記されている「アラスの山」が「嵐山」になったという説。そして、春になると山の桜の花びらが嵐のように花吹雪となり、秋には真っ赤な紅葉の葉が嵐のように散っていくからという説もあるというお話でした。個人的には、後者の方が情景が目に浮かび美しいので私は大好きですが。
さらに私をドキッとさせた学生の疑問は、嵐山の代名詞でもある、渡月橋の名前の由来。何十回と渡ったはずですが、考えたことがありませんでした。こちらも法輪寺のご住職が教えてくれました。「満月が橋を渡っているように見える」から「渡月橋」と呼ばれるようになったという話は有名ですが、驚いたのはもともとは「法輪寺橋」と呼ばれていたという話です。その理由は、836年に現在の大覚寺で隠居生活を送っていた嵯峨上皇が、法輪寺にお参りに行きたいと言われ、そのために橋をかけたことが起源とされているということでした。
つくづく、自分がよく知っていると思う場所でも新しく知ることがあるという体験でした。やはり、京都の地名や通りの名前、もちろん橋の名前に至るまで、聞けば聞くほど、知れば知るほど歴史が感じられる奥行きの深さが京都を歩く醍醐味なんだなと実感した一日でもありました。
私の知る道は私の道。あなたの知る道はあなたの道。しかし、それぞれの道を初めて歩く人と一緒に歩いてみてください。あなたの道にこれまで知らなかった新しい発見が加わりますよ。