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三洋化成ニュース No.515
2019.07.01
(写真=大山雄大)
今年は私にとって思い出になる年です。
それは、元号が平成から令和に変わったからだけではありません。4月で70歳になり、しかも京都に来てちょうど50年という節目になるからです。
京都の道もたくさん歩きました。思い出深い道もたくさんできました。
今回は、そんな思いにもふけりながらゴールデンウィークを利用し懐かしい道を歩きました。
50年前、私は同志社大学の留学生でした。龍安寺と仁和寺の近くのお宅に下宿をしました。そのお宅では、スピッツの「甚六」とパグの「熊五郎」という2匹の犬を飼っていて、毎日夕方になると2匹を散歩に連れていくのが私の日課でした。塔ノ下町というバス停から50メートルほど離れると石畳の山道があります。この辺りからが私の思い出の道であり、散歩コースでもありました。50年前を振り返りながら歩いてみると、当時は日本語がほとんど話せず、コミュニケーションもまだまだうまく取れず、つらかった来日当初を思い出します。そんな英語しか話せない私の話を聞いてくれたのが、「甚六」と「熊五郎」でした。あの日からこの京都に50年も住めるとは本当に思ってもいませんでした。
バス停から20分ほど山を登ると京都市内が一望できました。しかし今はもう家が増え、木が茂り見えなくなっていました。もう少し上がると、右・龍安寺、左・仁和寺と書いてある分岐点に差しかかります。そこから仁和寺の方へと向かいながら歩くと「御室八十八ヶ所霊場」の52番に当たります。御室八十八ヶ所霊場とは、「京都でできる、一日お遍路」のことで、仁和寺の裏にある成就山の約3キロメートルにわたる山道に、お堂(札所)が点在し、それぞれのご本尊・弘法大師が祀られています。四国八十八ヶ所の写しである札所を約2時間の行程で全て巡ることができ、霊場巡礼と同じご利益を得ることができるという場所です。仁和寺の正門から入り、拝観料を払うところで「霊場巡りに来ました」と言えば、拝観料は必要なく、地図を渡してくれますのでぜひ一度訪れてみてください。
今回、久しぶりに懐かしい道を歩くことで、昔の記憶が鮮明によみがえり、「思い出」と「道」がつながっているという感覚を実感しました。1970年にアメリカの大学を卒業し京都に戻り同志社高校に就職したこと。実はその時もまた同じお宅でお世話になっていたこと。学校から早く帰れる日は、帰宅すると留学生だった時と同じように「甚六」と「熊五郎」の散歩をしたこと。お見合いで最高のパートナーを紹介してくれた指導教授。結婚式はお金もなく、私の親をアメリカから呼ぶことができなかったので、下宿先のおじさんとおばさんが親代わりに出席してくれたこと。
あれから50年。元号も新しくなり、私の京都生活も新たにスタートする感覚ですが感謝の気持ちばかりがやはり込み上げてきます。
これまでお世話になった、下宿先のおじさんとおばさん。私に日本の素晴らしさをたくさん教えてくれた日本の皆さん。本当にありがとうございます。これをお読みいただく皆さんも新しい時代のスタートを機に懐かしい思い出の道を訪ねてみてください。きっとよみがえる記憶に、感謝いっぱい、胸いっぱいの気持ちになると思います。
また「甚六」と「熊五郎」と話をしながら歩きたいと思いました。私の日本語を聞いたら、「よくがんばったね」と語りかけてくれるかな。