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三洋化成ニュース No.516
2019.09.05
自動車や建物から、家電製品や食品のパッケージまで、私たちの身の回りには色とりどりの工業製品があふれ、文字通り暮らしに彩りを添えています。このさまざまな色を生み出しているのが、塗料やインキです。塗料は自動車のボディなど全体的に色を付ける塗装に用いられ、同時に製品を保護するという大切な役割も担っています。インキは食品のパッケージなど対象物に絵や文字を描く印刷に使用されます。
塗装や印刷で、きれいに発色させたり、塗膜を長持ちさせるためには、塗料やインキの性能が重要になります。
塗料やインキの中身は、塗膜をつくる樹脂、色を発現するための顔料や染料、それを希釈する溶剤や水、塗膜を整えたり顔料を分散させたりする添加剤などで構成されています。色の元となる成分としては、顔料と染料がありますが、顔料は色の粒が大きく、10〜数十ナノメートルの状態で溶剤や水の中に分散するもの、染料は色の粒が小さく、1ナノメートル以下で溶剤や水に溶け込んでいるものを指します。どちらも用途によって使い分けられますが、顔料は染料に比べて耐久性があり屋外で雨風にさらされても劣化しにくい特長があるため、塗料やインキでは主に顔料が使われています。
塗料やインキの役割としては、第一に美しい発色が求められます。そのためには色を構成する顔料が、塗料やインキの中に均一に分散していることが大切です。ただ、顔料同士は集まりやすい性質があるため、単に水や溶剤に混ぜただけの状態では、顔料ばかりが集まり、塗料やインキの中で固まってしまいます。
この顔料同士が集まる性質を防ぐ役割を果たすのが、顔料分散剤です。顔料と溶剤や水の間に入り込んで両者をつなぐ役割を果たし、液体の中でも顔料同士が集まらない安定た状態をつくり出します。
また最適な顔料の分散は、美しい発色はもちろん、塗料やインキをきれいに定着させたり作業しやすくするための適切な粘度を保ったり、長期保管による顔料の沈殿を抑制する働きもあります。このように、顔料分散剤は塗料やインキにとって欠かせない成分となっています。
食品のパッケージなど薄いフィルムに印刷する場合、印刷工程で発生する静電気は品質不良だけでなく思いがけない事故にもつながります。そのため、静電気を抑えることも重要になります。
フィルムなどの軟包装材とインキは、両者とも電気を通しにくい性質を持っているため、印刷では静電気が発生しやすい状態になります。静電気が発生すると、その静電気反発により絵や文字の周囲に糸状にインキが飛んでしまう「糸引き」と呼ばれる現象が起こりま
す。インキが飛び散れば、当然その印刷物は使えなくなってしまうため、「糸引き」防止は、印刷の歩留まり向上には不可欠な要素になります。
またフィルムは印刷後に大きなロールに巻き取られますが、印刷物をロールから剥がす際にも静電気が起こります。スパークによる火花がフィルムに引火したりすると、最悪火災の原因にもなりかねません。
こうした事故を防ぐため、通常は除電機などを使用して機械的に電気を逃がしています。しかし、除電機が届かない場所もあるため、インクやフィルムの方にも静電気を防止するための専用の添加剤を加えるなどの対策がとられています。フィルムなどの軟包装材の印刷では、不良品や事故の原因になる静電気の防止も、インキに欠かせない機能の一つなのです。
このように、塗料やインキには、顔料分散と静電気防止の両方の機能が必要になりますが、一般的にはそれぞれ別の添加剤が使われています。この両方を兼ね備えているユニークな製品が、三洋化成の『ケミスタット 3500』です。
昭和40年代から使われ続けているロングランの製品で、特に、お菓子や冷凍食品、レトルト食品のパッケージなど、軟包装材の印刷の分野で、さまざまなインキに採用されています。一つの添加剤が二つの機能を持っているため、各々添加剤を加える必要がないところも大きなメリットで、機能面はもちろん、作業性の良さもお客様から高く評価されています。
一方ここ数年、塗料の分野では環境への配慮から水系化が進んでおり、将来的にはインキにも水系化の流れが広がることが予測されています。水性インキに対応できる顔料分散剤の開発は、塗料メーカーにとって一つの大きな課題でもあります。実は『ケミスタット3500』は、油性系の溶剤だけでなく、水とも相性が良いという性質も持っており、インキの水系化にも、大きく貢献できると期待されています。
三洋化成では、水系化を目指すインキの世界でも、豊かな暮らしと環境保護の両立に貢献できる顔料分散剤の実現に向け、開発を続けています。