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ひとの心に植物を植える

三洋化成ニュース No.507

ひとの心に植物を植える

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2018.03.09

写真=本間伸彦

プラントハンター/そら植物園 代表 西畠 清順 〈にしはた せいじゅん〉
1980年兵庫県生まれ。幕末より150年続く花と植木の卸問屋の5代目として、21歳より日本各地・世界各国を旅してさまざまな植物を収集するプラントハンターとして活動。年間250トンもの植物を輸出入し、日本や世界の植物園、政府機関、企業、貴族や王族などに届けている。2012年、そら植物園を設立。「共存」をテーマにした世界各国の植物が一つの森を形成している代々木ヴィレッジの庭を手掛け、都市の緑化事業に大きな影響を与える。東日本大震災復興祈願イベント「桜を見上げよう。sakura project」では、47都道府県から集めた巨大な桜を、同時にいち早く咲かせることに成功した。2017年には「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」で141万人を動員した。著書に『教えてくれたのは、植物でした』など。

 

西畠清順さんは、兵庫県川西市で150年の歴史を誇る花と植木の卸問屋の5代目であり、そら植物園 代表。依頼主の要望に応えて、その場にふさわしい植物を世界中から探して届けるプラントハンターでもあります。「ひとの心に植物を植える」をコンセプトに、2012年そら植物園をスタート。誰でも植物に触れられる機会を提供することで、植物の魅力をより多くの人に伝える活動に取り組んでいます。植物への思いや植物を通して伝えたいことについて伺いました。

植物を探して届けるプラントハンター

-- ここ、代々木ヴィレッジの庭園はとても素敵ですね。都会の真ん中に、こんな緑あふれる空間があるとは、驚きました。

今日はワークショップがあって、参加者の皆さんと一緒に、庭の多くの植物を入れ替えています。重労働ですが、ある程度準備されたワークショップと違って、植木屋になったようなリアリティーが味わえると、人気なんですよ。毎回100人を超える応募があり、有名な企業の社長やアーティスト、クリエイターなどが参加されることもあります。

-- 都会では、土に触れる機会があまりありませんものね。プラントハンターというのは、植物の狩人という意味ですか。オリジナルの肩書でしょうか、それとも、昔からある職業なのでしょうか。

16〜17世紀に、ヨーロッパの王族や貴族のために植物を運んで届けることを仕事にしていた人のことを、プラントハンターと呼んでいます。僕も、王族や貴族に頼まれて植物を運ぶことがありますよ。

-- すごい。大変なお仕事ですね。

今の時代、植物が果たす役割はそれだけではありません。公園を造ったり、イベントに植物を飾ったり、施設を緑化したり、いろいろな場に必要な植物を調達して届けています。

-- さまざまな場面で、プラントハンターの力が発揮されているんですね。

プラントハンターは、植物で世界を変えてきた人たちです。コロンブスは、新大陸から植物を運んでヨーロッパの飢餓を救いましたし、ヨーロッパにひまわりが持ち込まれなければ、ゴッホの名画「ひまわり」は生まれませんでした。南米にあったパラゴムノキの樹液からラテックスが採れてゴムになることが発見されなければ、ゴムタイヤは生まれず自動車産業は発展していなかったかもしれません。生活、科学、芸術、ライフスタイルなど、いろいろな分野・文明で、世界を変えた植物があるのです。

-- 誰かがどの時代かに、違う場所に植物を持ち込んでくれたからこそ、今のさまざまな文化ができているんですね。

僕がプラントハンターを名乗り始めたのは、植物の魅力を発信しようと、何年か前にブログを書き始めた時です。WEBデザイナーがブログの画面にプラントハンターという文字をデザインしてくれました。初めは、「ちょっと大きく出たかなあ」と思いましたが、僕の活動とともに、プラントハンターという職業も、世間に知られるようになってきています。植物を届けることを仕事にしているからには、この名に恥じないようにしたいですね。

人生を変えた秘境の食虫植物

-- 大変歴史の長い、花と植木の卸問屋の5代目ということですが、プラントハンターとはどんなお仕事なのでしょうか。

実家は幕末から、日本全国のさまざまな花を集め、開花時期を調整する技術を駆使して百貨店などに卸していました。代々、開花調整技術を進化させ、海外での植物採集も始めて、お客様の幅が広がりました。今では、長い歴史を背負う活け花の家元や、時代のトップを走るフラワーアーティスト、世界に名を馳せるガーデナーからも依頼をいただくようになり、彼らに納得してもらえるような花材や植木を提供しています。僕は、そんな職人たちの姿を見て育ったんです。

-- 子どもの頃から、身近に植物があったのですね。

ゆくゆくは家業を継ぐことになっていましたが、20歳頃までは植物に全く興味がなく、高校卒業後は海外留学や熱帯地方への旅行に明け暮れていました。ところが、最後に訪れたボルネオ島のキナバル山で出会った、食虫植物の王様といわれる「ネペンセス・ラジャ」が僕の人生を変えたんです。生まれて初めて「植物って俺が考えているよりも、すごいもんとちゃうか」と感じました。その後帰国してからは、魔法にかかったように植物のことが好きになっていきました。

-- 植物の注文は、どんな形で来るのですか。

どの種類の木を何本用意するという仕事もあれば、人を集めるイベントのためにアイデアを出すところから関わることもあります。

-- 例えば、「三洋化成の社屋の前にシンボルツリーを置きたい」という依頼があったら、「三洋化成らしい木とはどういうものか」というところから始まるのですか。

そうです。会社の歩みや歴史、社屋の環境や植生など、いろいろな情報を吸い取って、具体的にプランに落としていきます。

-- 注文した側の予想を超える仕事が求められるのでしょうね。

その通りです。いただく金額以上の仕事を返さなければいけないという姿勢で仕事をしています。それを積み重ねているから、いろいろなところでお仕事がいただけるようになったのかもしれません。

世界中を飛び回り注文に応える

-- 斬新なアイデアを生み出すためには、世界中のどこにどういう植物があるのか知っておかなければなりませんね。海外にはどのくらい行かれるのですか。

プラントハンターは情報があっての仕事です。年の4分の1ほどは海外にいますね。これまでに200回以上渡航し、36カ国以上を訪ねています。調達だけでなく、植栽計画やイベントに関わったり、会議でプレゼンテーションをしたり、コンサルティングをしたりと、いろいろな仕事をしています。

ジブチ共和国でコミフォラという植物と       写真=そら植物園

-- 植物を運ぶ時は、どのようなことに気を付けていらっしゃるのですか。

それは、植物の種類や運ぶ時期によって全然違います。これまでさまざまな木を見てきた経験を活かして、この木ならこういうふうにしてあげたら、元気でいられるだろうなと、そのつど判断しています。

-- 神戸のメリケンパークでの「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」(2017年12月)に向けて、樹齢150年のあすなろの木を運ばれましたが、その時はいかがでしたか。

この時は、特別な船をチャーターして富山県から神戸港まで運びました。根を掘り取り、弱らせないよう細心の注意を払って船に積み込みます。あすなろの木は常緑針葉樹なので、冬になると結構移植に強くなるのですが、柔らかくて折れやすく、しかも、24トンもの大木ですから、慎重に慎重に動かしました。

-- 海外から植物を運ぶ場合は、さらに違う苦労や工夫が必要になりますね。

そうです。そら植物園では、年間250トンくらいの植物を輸出入していますが、国際法に基づき、検疫を通す必要があります。そのために、根を全部洗って土を落とし、虫が1匹も残らないよう徹底的に消毒しなければなりません。

-- 虫が付いていたら、その木はどうなるんですか。

若い頃、海外から持ち帰った木にカタツムリが付いていて、大量の植物を全部、涙をのんで送り返したことがありました。その場で焼却処分するという選択肢もあったんですが、活かそうと思って持ってきた植物を、活かすことができないのであれば、元の場所でもう一回生きた方がいい。そのためにできる限りのことをしたいと思ったんです。その船賃は当時、つらい出費でしたが、命あるものを扱ううえでの授業料だったと思っています。

-- プラントハンターとして、大切なご経験だったのですね。これまでで、印象に残っているお仕事はどのようなことでしょうか。

巨大なボトルツリーを輸入したことです。ボトルツリーは、幹が徳利のように大きく膨んでいて、ずっと憧れていたバオバブの木にそっくりな木。依頼を受けて、総重量14トン、幹の直径が2・2メートル、高さ11メートルのボトルツリーを見付け、海上輸送用の最大サイズのコンテナで運びました。これは今まで日本に輸入された植物の中でも、最大のものです。建設資材用のクレーン車で吊り上げ、船に乗せた時の光景は、まるで鯨が泳いでいるようでした。

-- そんなに大きな木が、海を渡って日本に来たのですね。

  オーストラリアから巨大なボトルツリーを運んできた 写真=そら植物園

植物に本気で向き合いその命を活かす

-- 植物に向き合う時に、大事にしていることは何でしょうか。

園芸業界は大量生産・大量消費型で、市場に出荷された植物の中から選んで仕入れるのが一般的です。けれど僕は、植物を扱う目的と行程を大事にし、植物と本気で向き合うよう心掛けています。京都駅ビル開業20周年の庭園をプロデュースした時には、地下街に京都の伝統的な北山杉20本を植え、ドーム型の大屋根が開くと、庭園が京都の空とつながるような仕掛けを施しました。なぜこの場所にこの木が必要なのか、どういう経緯で持ってくるのか、ということにこだわっています。

-- 変わった植物をただ持ってくればいいというのではなくて、なぜこの植物なのかという、意味付けを大事にされているのですね。

もう一つ、植物を「活かす」ことも大事にしています。僕らは日常生活の中で、とてつもない量の植物の命をいただいて生きていますよね。紙や鉛筆、家具、住宅など、一人が一生で20メートルの杉を110本分消費しているそうですよ。

-- そんなにたくさんの木材を、私たちは使って生活しているんですね。

そうなんです。活け花は、花を活かすと書きますが、花を切るところから始まります。切る行為には覚悟がいります、命をいただくことですから。花を切り、手に取った瞬間、自分に責任が生じ、どうすればこの花の命を活かせるか考えるという次のステージに移ります。だからこそ、違う意識でその花を見ることができるんです。活け花は芸術というより、哲学に近いものだと思っています。

-- 自然の状態にある植物を、あえて自分の手元に持ってくることで、生まれる思いがある……。切ったらかわいそうだからと、そのままにしておいたのでは知り得ないことがあるのですね。

そうです。観葉植物でも同じです。自然のままにしておいた方が木は元気だったかもしれないけれど、それを植木鉢に入れて部屋に置けば、「なんか元気がないな」「芽が出てきたな」と、違う意識で眺めるようになるでしょう。人間と植物って、付き合ってなんぼなんですよ。

-- 先ほどの「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」は、とても素敵な企画だと思いましたが、一方で批判の声も上がりました。

「樹齢150年の木を切ってしまって、かわいそうだ」といった声がありました。しかし誰もが、木材を使った家具や鉛筆などを使っているのではないでしょうか。年間にどれだけのあすなろ材が出荷されているか、ほとんどの人は知らないでしょう。この一本のあすなろは人間がやっている行いの象徴。これだけ議論が広がったということは、この木が多くの人に気付きを与えてくれた、最高の形で活かせたということだと思っています。

植物に触れれば人の心は変わる

-- そら植物園を作られたのも、人と植物の出会いの場を提供するためでしょうか。

はい。2012年に、そら植物園を作りました。母体は、プロの園芸家など、植物業者向けの卸問屋ですが、そら植物園のテーマは「ひとの心に植物を植える活動」。国内外問わず、一流企業や行政機関、政治家、クリエイターやアーティスト、建築家などと組んで仕事をしています。植物を活かして、建築、医療、教育、アート、デザイン、音楽、化学、政治などあらゆるジャンルと混ざり合い、垣根を飛び越えて新しいものを生み出したい。世の中を植物にまみれさせたいですね(笑)。

-- あまり植物に関わりがない人にも、植物の魅力を知ってもらいたいということですか。

環境や自然を守るためには、まず多くの人に植物に触れて、植物を好きになってもらうことが大切だと考えています。そのために、いろいろな角度から一人でも多くの人に植物の魅力を伝えたいと思っています。まずは観葉植物を部屋に置いたり、花を飾ったりすることからでもいいんです。

-- 誰かが世話している植物を眺めるだけではなくて、自分から踏み込んで、体験することが大切なのですね。

そうです。自然保護の父といわれるジョン・ミューアは、カリフォルニアの森を破壊から守ろうと、当時のルーズベルト大統領を呼び出して、森で一緒にキャンプをしたといいます。この体験に深い感銘を受けたルーズベルト大統領が、国立公園の理念の基礎を築きました。行動しなければ、世界は変わらないと思います。

-- 体験しないと、心の底から自然を守りたいという思いにはつながらないのですね。

植物に触れるだけでも、人の心は変わります。植物は地球上で、動物や人間よりもはるかに長い時間を生きています。その事実からくる説得力に勝るものはありません。

-- 西畠さんが、一番お好きな木は何でしょうか。

桜の木です。桜の「さ」は神様、「くら」は神様が下りてくる場所という意味があります。日本人は桜に神の木と名付けるほど、特別なものを感じているのです。春になればきれいな花がたくさん咲くけれど、桜が咲いたら、なぜかそちらに目を奪われてしまいます。説明できないカリスマ性のようなものがある木だと思います。

-- 春が待ち遠しくなりました。本日は、ありがとうございました。

と き:2017年11月26日
ところ:東京・代々木の代々木ヴィレッジにて

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