MENU

[vol.14] メスが率いる強い絆「アフリカゾウ」

三洋化成ニュース No.503

[vol.14] メスが率いる強い絆「アフリカゾウ」

シェアする

2017.08.26

死ぬまで成長しさまざまな経験を蓄積

群れの先頭を歩くのは長老のメス

ゾウは現生する陸上動物の中で最も大きい。2種類いるうちの一つはアジアゾウで、インドやインドネシア、タイ、マレーシア、中国南部などに生息している。これらの地域では荷役動物として人々の生活にも密着し、絆も深い。もう一つがアフリカゾウ。アフリカ大陸で、サハラ以南の草原や森林といった広範囲に生息している。僕は主にケニアやタンザニアのサバンナでゾウの撮影を行っている。

ゾウは寿命が60年ほどと人間並みに長く、学習能力にも秀でて、記憶力も優れている。死ぬまで成長し続けるため、群れの中で一番大きな個体が最長老ということになる。さまざまな経験を蓄積している長老は、その経験を活かし、家族を安全に導き、仲間に危機が訪れると自ら体を張って守る。オスの体の大きさは、平均で体長6〜7.5メートル、肩高3.3メートル、体重は6トンにもなる。これまで確認された最大の個体は、肩高4メートル、体重は10トンにも達した。現在はその剥製がアメリカのスミソニアン博物館に展示されている。上あごの門歯が伸びたものが牙であるが、この牙もまた一生伸び続けるのだ。大人のメスの牙は平均で片側9キロ、オスだと60キロにもなり、長生きしているオスだと130キロになることもあるという。

嗅覚にも優れ群れの行動を導く長い鼻

キリマンジャロの裾野を歩く群れ

体が大きく、牙の立派なゾウを間近で見ると、そのあまりの迫力に圧倒されてしまう。気性が結構荒いので、個体の様子を見ながら近付かないと危険な場合もある。象牙とともに、ゾウらしさを最も象徴しているのが、その長く伸びた鼻。この鼻は上唇と鼻が伸びたもので、とても器用に動かすことができる。ゾウは首が極端に短いため、頭を動かして食物を得ることが難しく、その代わりに鼻を使って地面から草を引っこ抜いたり、水を吸い上げたり、木の葉や芽、果実をもぎ取ったりする。鼻は鋭い感覚器官として重要な役目も持っていて、嗅覚は、群れの中でのコミュニケーションや、外敵を発見するなど、野生のフィールドで生き延びるために欠かせない感覚である。親子の間では、母親が鼻で子どもを愛撫したり、行動を導いたりするためにも必要なものである。

ゾウの特徴としてもう一つ。それはやはり大きな耳だろう。体が丸くて大きなゾウは、相対的な皮膚面積が小さく、体の中に熱がこもりやすい。薄く表面積の大きな耳には毛細血管が集中していて、この耳から多くの熱を発散させるのだ。いわば車のラジエーターの役割。聴覚も大変優れており、声によるコミュニケーションも盛んである。

食事の量がまた膨大で、大人だと一日150キロもの植物を食べるという。しかしその半分ほどは未消化のまま排泄されるため、植物の種子などを広範囲に広める役にも立っている。必要とする水も大量で、一日70〜90リットルほど。アフリカは雨季と乾季があり、大量の食物や水を求めてゾウは非常に広い行動範囲を必要とする。毎日数十キロ歩くのはざらのようだ。

強い絆で結ばれた家族の歩み

社会生活の営みは最長老のメスをリーダーとし、その娘が数頭とさらにその子どもたちで一家族を形成する。行き先を決めたり、外敵が現れた時に真っ先に立ち向かったりするのがリーダーの役目でもある。家族の絆は深く、例えばリーダーがハンターに銃で撃たれると、群れの仲間が危険を顧みずに助けに来るという。頭の良いゾウのことだ。どういう状況にあるのかを理解しているはずだが、それでも助けようとするのは、我々と共通する何かがあるということではないだろうか。

オスの子どもは10歳を過ぎると性成熟し始めるが、実際に交尾にいたることはなく、15歳頃に群れを離れ、放浪するようになる。
いっときは若いオスだけで集まり行動することもあるが、オスは基本的に単独で行動する。一年周期で訪れるメスの発情期になると、オスは群れを渡り歩いて交尾可能なメスを探す。そのため毎日広範囲を歩き回る必要がある。体の大きいオスは体力があるので長距離を歩くのに向いており、交尾できるチャンスも多くなる。必然的に体の大きな強いオスの遺伝子が継承されるというわけだ。

 

鼻を絡ませコミュニケーションをとる

 

アフリカゾウの赤ちゃんは、さすがに地上最大の動物と言えるもので、誕生時の体重が120キロもある。6歳頃には体重1トンに達し、15歳を過ぎると成長速度が遅くなるものの、その後も成長し続ける。長寿ではあるが生存率はあまり高くなく、15歳までに約半数が死に、30歳まで生き残れるものは5分の1程度である。

美しい牙を目当てに密猟は絶えない

沈む夕日をバックにサバンナを歩く

川に入り鼻で吸い上げて水を飲む

ゾウの生息数は世界的に見て、減少の一途をたどっている。主な要因は象牙目当ての密猟だ。象牙目当ての狩りは紀元前から行われていたが、19世紀末にライフル銃が導入されると、その数は一気に増加した。ある時、カメルーンのジャングルで、ゾウの骨や残骸が散乱する場所に出くわした。大きな頭蓋骨には自動小銃のカラシニコフで撃ち込まれた弾丸の穴が無数に空き、大量のウジ虫が干からびて死んでいた。牙の付け根はチェーンソーで削られている。丸い皿のようなものを拾い上げると、それは剥がれた足の裏だった。GPSなどハイテク機器を駆使した密猟組織は、ピンポイントでゾウの位置を特定し、雑に素早く殺して象牙を切り取り、あっという間に姿を消すという。

野生動物を守る国立公園のレンジャーのオフィスには、押収された象牙が無数に転がっていた。象牙の需要がなくならない限り、このイタチごっこはいつまでも続くことになる。優れた能力をいくつも秘め、古くから人類とも密接に共生してきた類いまれなる地上最大の生き物。ゾウを取り巻く環境は、これから先も予断を許さない状況だ。

文・写真=動物写真家 前川 貴行〈まえかわ たかゆき〉

1969年東京都生まれ。和光高等学校卒業。

エンジニアとしてコンピュータ関連会社に勤務した後、独学で写真を始める。1997年から動物写真家・田中光常氏の助手を務め、2000年からフリーでの活動を開始。世界を舞台に、野生動物の生きる姿をテーマに撮影に取り組み、雑誌、写真集、写真展などで作品を発表している。2008年日本写真協会賞新人賞受賞、2013年第1回日経ナショナル ジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。公益社団法人日本写真家協会会員。主な著書に『動物写真家という仕事』など。

 

 

関連記事Related Article

PAGE TOP