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三洋化成ニュース No.522
2020.10.16
高分子薬剤第1研究部
ユニットマネージャー 藤田 政義
[お問い合わせ先]
石油・建設・環境本部
建設産業部
エポキシ樹脂接着剤は、接着性、耐薬品性、耐熱性、機械特性、電気特性に優れており、その高い信頼性から車両、土木建築、エレクトロニクス、宇宙産業など、長時間大きな荷重がかかるような接合部などでも幅広く活躍している。本稿では、このような接着剤用途において、近年求められている環境対応や耐久性向上などのニーズに応え当社のエポキシ樹脂システムについて紹介する。
エポキシ樹脂とは、分子内にエポキシ基を2個以上持った化合物で、通常はエポキシ樹脂硬化剤(以下、硬化剤)と組み合わせて使用され、反応によってさまざまな特性を持ったエポキシ樹脂硬化物(以下、硬化物)が得られる。
代表的なエポキシ樹脂としては電気絶縁性、耐薬品性に優れるビスフェノールA型エポキシ樹脂、多官能で耐熱性に優れるノボラック型、低粘度で色安定性の良い脂環式エポキシ樹脂などがあり、それぞれの特徴に応じて目的にあったものを適宜使い分けされている。
当社ではポリエーテルをグリシジルエーテル化した『グリシエールPP-300P』を上市している。ビスフェノールA型エポキシ樹脂などと併用して硬化すると可とう性に優れた硬化物を得ることができる。表1にその性状例を示す。
エポキシ樹脂硬化剤は種類が多岐にわたり、その種類や使用量によって硬化条件や可使時間が決まり、硬化物にさまざまな特性を付与している(表2)。
硬化剤のなかでもポリアミン系は最も種類が多く、接着性に優れる硬化物が得られる。そのうちポリアミドポリアミンは、カルボン酸とポリアミンとの脱水縮合反応により合成され、その原料と組成割合により、粘度、アミン価、反応性の異なる多くの生成物を得ることができる。エポキシ樹脂に対する配合割合の許容範囲が比較的広く、ポットライフが長い。特に分子量が大きいものは皮膚刺激性が小さく、可塑性、可とう性に富む硬化物を得ることができ、硬化物の靱性や接着性が良くなる。このような優れた特長を活かして接着剤や塗料など汎用性が高い用途に使用されている。当社ではポリアミドポリアミン系硬化剤を『ポリマイドL』シリーズとして上市している。表3 にその概要を示す。
そのほかの特徴的な硬化剤の一つとして、酸無水物系硬化剤がある。硬化には高温加熱が必要で、湿度の影響を受けやすい欠点はあるが、低粘度で作業性が良く、配合物のポットライフが長く、ほかの硬化剤と比べて硬化時の収縮や発熱量が少ない。また、硬化物の電気絶縁性、機械的特性、耐熱安定性に優れ、皮膚刺激性がアミン系に比べて小さい特長がある。そのため大型の成形物や電気・電子用途などにも使用される。
当社でもアルケニルコハク酸無水物『DSA』『PDSA-DA』を上市している。これらは酸無水物系の中でも特にポットライフが長く硬化時の収縮や発熱量が少ないため取り扱いやすく、物理的特性や電気的特性に優れた硬化物が得られる。表4 に『DSA』『PDSA-DA』の性状を示す。
エポキシ樹脂と硬化剤の反応により得られる硬化物は、電気的特性、機械的特性、基材との密着性、耐薬品性、耐水性、耐熱性、寸法安定性が良好であり、電気・電子、土木建築、輸送機、船舶などの接着剤、塗料、封止材料、注型用樹脂に幅広く使用されている。特に接着剤はその優れた接着性により主要な用途となっている。
エポキシ樹脂接着剤は、液状タイプが一般的で、2液型または1 液型に分かれている。
なかでも室温で反応するような2液型の液状タイプは硬化性や作業性が良く、硬化物の接着強さや耐久性、耐水性などの利点も合わさって広く使用されている。
当社は独自の変性技術や配合技術により、液状タイプの2液型接着剤を土木建築分野を中心に開発・販売している。以下、土木建築用接着剤について説明する。
土木建築用接着剤は建築物の補強や補修、壁面や床材のライニング、アンカーやネジの接着充填やコンクリートの防水などに使用されている。接着剤には環境への配慮や、工数削減による生産効率の向上などが求められている。さらに用途によってはこれまで以上に高い耐久性が求められており、当社でもこれらのニーズに対応する製品を開発している。
浄水場、下水処理場、地下鉄、プール、建築物基礎、ポンプ室、エレベータ室、水槽など多くの防水工事には施工面に塗布し、防水材を形成するエポキシ樹脂システム(樹脂、硬化剤、添加剤などが配合されたもの)が使用されている。これらの用途においても前述したように環境配慮や生産性向上などのニーズがある。
当社の『ダブルコートS』は環境に配慮した水系の接着剤として、溶剤を含まない水系のエポキシ樹脂、水系のポリアミドポリアミン、骨材からなるシステムで構成している。
これらを施工現場で配合してコンクリートや塩化ビニル板などの下地に対して塗布すると、硬化して下地と強固に接着した耐アルカリ性や耐酸性に優れた防水層を形成する。下地へは、コテやローラー、スプレーなどで比較的容易に塗布することができ、湿潤面への施工も可能である。また、重ね塗りした『ダブルコートS』層同士の接着力や、ポリウレタン塗料やエポキシ塗料などとの接着力にも優れている。
このような特長を活かして『ダブルコートS』システムは、多くの防水工事に使用されている。表5、6に『ダブルコートS』システムの概要および性能例を示す。
土木建築用接着剤は地球環境への負荷低減だけでなく、作業者の健康への影響も配慮して溶剤を使用しない無溶剤系や水系、ホルムアルデヒドを使用しない接着剤に変わってきている。
当社2液型エポキシ樹脂接着剤『エポタイト』は、常温で硬化し、溶剤やホルムアルデヒドを含有せず、劇物に非該当となるよう設計している。主剤のエポキシ樹脂と硬化剤のポリアミンにそれぞれ無機充填剤を分散しており、室温で硬化する。『エポタイト』は以下の特長がある。
①作業性、機械的特性
施工現場などでの使用環境に合わせて被着体に塗布できる適度な粘度、作業時間を確保できるポットライフ、壁などの垂直面などに施工してもタレにくいことなどが求められる。
無機充填剤を分散した接着剤は、使用時のタレや充填剤の沈降防止のため、一般的にシリカなどのチクソ化剤が使用されるが、接着剤の粘度が高くなるため無機充填剤の使用量を多くできない欠点がある。
当社は高分子量ポリエーテルの併用によりチクソ化剤使用時でも無機充填剤を高濃度に充填することができ、優れた作業性を実現している。
無機充填剤を多く含有できたことで、高い圧縮強度を有しており、長時間大きな荷重がかかるような接合部に用いられる接着剤(構造用接着剤)としても使用される。
②耐水性
『エポタイト』は疎水性の原料で設計しており、接着剤が未硬化の状態でも水による影響が少ないため、屋外の現場などでの施工後に突然の降雨があった場合でも十分な強度を発現する。また、硬化物は耐水性に優れる。
③省力化
『エポタイト』は、エポキシ樹脂成分とポリアミン成分をそれぞれカートリッジ容器に充填した2液カートリッジタイプである。使用時は2液カートリッジにスタティックミキサーをセットして専用の押出し装置で2 液を混合する。
2液カートリッジタイプは、施工現場での計量や混合などの調合工程が不要なため、作業者の省力化、生産効率の向上につながり、接着剤の配合ブレや混合不足の心配もない。また、必要量のみを使用できるため経済的にも良い。
このような優れた特徴を有する『エポタイト』だが、ほかの2液型の接着剤と同様に、固化する過程において内部応力が発生する。内部応力は、硬化時に発生する硬化収縮応力と、硬化温度から室温まで冷却した時に発生する熱収縮応力が原因であることが知られている。内部応力が大きくなると被着体と接着部の界面にかかる応力により、接着強度の低下や接合部が破壊するなどの問題が発生する(図1)。
当社は内部応力を抑制し、耐久性を向上させるため、接着剤が硬化する時の体積収縮をほぼゼロにした無溶剤の2液硬化型エポキシ樹脂接着剤を開発した。
『開発品 EP』は、前述した『エポタイト』をベースに、反応性の無機系膨張剤を分散した2液型エポキシ樹脂接着剤で、エポキシ樹脂の硬化速度に合わせて膨張剤が膨張するように調整したことで、硬化物の体積収縮をほぼゼロにすることに成功した。また、無機系の膨張剤により、硬化物の強度が低下しないので高い接着強度が得られる。土木建築用途以外の自動車用途などの構造用接着剤としても利用が期待できる。表7、8に『エポタイト』と『開発品 EP』システムの概要を示す。
土木建築分野は、公共事業や住宅着工件数の増加、震災復興事業、オリンピックのインフラ整備など、今後も需要の増加が期待されている。それに伴い、エポキシ樹脂接着剤に求められるニーズも高い接着強度や耐久性、環境対応など多様化している。このように多様化するニーズに対応すべく、引き続き製品改良や適用用途の拡大を図っていく。
参考文献
1)新保正樹編『エポキシ樹脂ハンドブック』(日刊工業新聞社)(1987)
2)エポキシ樹脂技術協会編『総説エポキシ樹脂基礎編Ⅰ』(2003)
3)藤本武彦監修『高分子薬剤入門』三洋化成工業(1995)