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三洋化成ニュース No.525
2021.03.29
事業研究第一本部AOA応用研究部
勝川 吉隆
[お問い合わせ先]
石油・建設・環境本部
石油・機械産業部
「金属加工油」は、自動車工業や機械製造工業などの金属部品加工には欠かすことができない製品である。加工物の精度向上や工具の破損低減、生産性向上などのために古くから使用され、産業の発展に大きな役割を果たしてきた。要求性能の高度化や環境対応の必要性が顕著になり、高機能・高付加価値の製品が要望されている。
本稿では金属加工や金属加工油についての概要とともに、当社の既存製品群と新規開発した潤滑性と低泡性を両立する水溶性のポリアルキレングリコール(PAG)系潤滑油基剤『ユーティリオール GA-15P』を紹介する。
金属加工とは、金属材料を求める形状に作り上げる技術のことである。金属加工には大きく分けて、「切削加工」、「研削加工」、「塑性加工」がある。金属加工時には金属と工具などの接触によって強い摩擦が発生し、発熱や損傷の原因となっている。
この摩擦を低減する機能の一つが潤滑機能(潤滑性)である。潤滑性を付与することで発熱を抑えられるほか、工具の損傷を防ぐことによる長寿命化や、製品の不良率を低下させるメリットもあり、自動車や機械などの部材・部品を製造する金属加工には欠かせない機能である。
金属加工油には、ほかにも冷却性、浸透性、さび止め性、耐劣化性、乳化・分散性、粘度指数向上性など、ニーズに合わせたさまざまな機能が付与されており、加工される金属の種類や金属加工の方法によって使い分けられている。
金属加工油には大きく分けて鉱物油などの基油を主成分とした不水溶性のものと、水に潤滑油基剤を配合した水溶性のものがあり、一般に不水溶性のものは潤滑性に、水溶性のものは冷却性に優れている。不水溶性加工油の8割程度を占める「基油」自身の潤滑性能はPAG系の潤滑油基剤に比べて乏しく、「極圧添加剤」や「摩擦低減剤」などを配合することで潤滑性を向上させている。水溶性加工油は、潤滑機能を有する「潤滑油基剤」と「水」、分散性や可溶化性などの機能を発現させるための「界面活性剤」や防錆剤や防腐剤などの「添加剤」から構成されており、この原液を金属加工メーカーにて、10~50倍程度の水で薄めて使用される。
三洋化成は不水溶性および水溶性金属加工油用にさまざまなPAG系の潤滑油基剤や添加剤を提供している。その代表例を[表1]、[表2]に示す。
金属加工には古くから不水溶性加工油が使われてきたが、最近は環境対応やオイルミスト発生などによる作業環境の改善のほか、高速加工で発生する熱を効率良く冷却することによる加工精度の確保、加工後の洗浄工程の効率化など、さまざまな背景から、非鉄金属や鋼などの一般切削を中心に水溶性加工油が広く使われるようになってきている。なかでも「ソリューションタイプ」は基油を全く含まない透明な加工油であるため、環境配慮に加えて加工部を目視確認しやすいことなどから、市場ニーズが高まっている。
PAG は、低級アルコール等の活性水素を有する化合物(以下出発物質)にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド(AO)を付加重合させた化合物である。
PAGは出発物質の構造や付加するAOの種類、付加重合度、2種以上のAOを付加する場合は、その比率や付加の方法を変えることにより、用途に応じた種々の性能を有するものを合成することができる。
PAGは潤滑性に優れるため、潤滑油基剤として用いられるほか、界面活性剤として、乳化や可溶化、浸透などの機能を付与することもできるため、金属加工油の添加剤としても使われる。
また、その特長を活かし、金属加工用途のほかにも幅広い潤滑用途で使用されている[表3]。
水溶性金属加工油へのシフトが進むなか、この水溶性金属加工油に欠かせないのが潤滑剤となる潤滑油基剤であり、その代表的な例が「PAG系潤滑油基剤」である。
その特長は①優れた潤滑性、②粘度特性(高粘度指数、分子量制御が容易)、③水への溶解性コントロール(親水疎水比率の調整)が可能、④低温流動性に優れるなどが挙げられる。
一方で欠点としては①鉱物油などの炭化水素への溶解性が悪い、②酸化安定性や熱安定性に劣る、③吸湿性、④塗料などを剥がす原因となる可能性(界面活性能、浸透性)があるなどがあり、これらを踏まえたうえで、必要な対策を講じて使用する必要がある。
水溶性金属加工油は、火災の危険性が低く、冷却性に優れており、作業環境の改善や環境負荷を低減できるといった観点から需要が高まっている。金属加工技術の進化に伴い、さらなる高速な加工や高精密な加工を可能にし、工具を長寿命化させることが望まれていることから、水溶性金属加工油にはより高い潤滑性が求められている。また、加工の対象金属は鉄系だけではなく、加工が困難な高硬度材や延性の大きい素材も含まれ、これらの難切削材を高精度に生産性良く加工するためにも潤滑性の向上は必須である。一方で、従来のPAG系潤滑油基剤を用いた加工油では、潤滑性を向上させると気泡が発生しやすくなる傾向があり、高速運動する加工部での冷却性や潤滑性の低下、循環式タンクでのオーバーフローなどの不具合が懸念される。つまり、低泡性も重要な具備項目とされている。
そこで我々は、一般的に構造設計上トレードオフの関係にある「潤滑性」と「低泡性」の両立を図るべく、当社保有の界面制御技術とPAGの分子設計および製造技術を駆使し、『ユーティリオール GA-15P』を開発した。開発品は水に溶けやすく、高い曇点を示すことにより、水で希釈した加工油の透明性が高く、低泡性であるだけでなく、加えて優れた潤滑性を発揮する。『ユーティリオール GA-15P』はソリューションタイプでありながら、今後の市場成長が大きく見込まれる軽量な金属「アルミニウム」の加工が可能であり、幅広い金属種や加工方法にも貢献できることを期待している[表4]。
『ユーティリオール GA-15P』の特長は「潤滑性」と「低泡性」の両立である。シンプルな加工油のモデル組成物を用いて評価したそれぞれの機能発現の結果を下述する。
金属加工油における潤滑性の評価方法はさまざまな報告例があるが、我々は振動摩擦摩耗試験機(Optimol Instruments Prueftechnik 社製)を用いて、振幅する試験鋼球間の荷重を徐々に上げていった際の耐焼き付き荷重を測定した。値が大きいほど潤滑性に優れることを意味している。『ユーティリオール GA-15P』が当社従来品に比べて潤滑性に優れること、また濃度が高いほど潤滑性が向上する濃度効果も認められたことから、加工精度などに合わせて配合量を調整する許容幅が広いことが示された[図1]。なお、摩擦係数は従来品と有意な差は認められなかった。
一方で、金属加工油における低泡性の評価方法もさまざまな報告例があるが、我々はバイオミキサーの乱流により発生させた初期の起泡性と、その後の静置時間(経時)による消泡性を従来品と比較した。初期の泡高さと経時による泡高さが低いこと、それをグラフ化した際の傾きが大きいことを、低起泡性と破泡性の着眼点とした。トータルの性能が高い『ユーティリオール GA-15P』は、従来品と同程度の低起泡性を示しながら、それらよりも良好な破泡速度が認められた[図2]。
以上のことから『ユーティリオール GA-15P』は、潤滑性(耐焼き付き荷重)と低泡性(低起泡性かつ破泡性)を両立できたことが示された。
開発品『ユーティリオールGA-15P』は、切削や研削のような潤滑性や低泡性を必要とする金属加工油用途の潤滑油基剤のほか、界面活性剤としての分散や可溶化などの機能も期待でき、またPAGとしての低スラッジ性などの特長も有していることより、さまざまな分野への展開も想定される。未来において広く世の中に活躍するパフォーマンス・ケミカルスとなることを願う。
そして我々は、世の中のニーズに応え、より良い社会の建設の一助となるべく、さらなる高機能なパフォーマンス・ケミカルスの開発を進めていきたいと考えている。