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三洋化成ニュース No.526
2021.06.10
今回は夏にぴったりな海の風景を堪能できる、絶景のローカル線をご紹介しましょう。秋田県の東能代駅と、青森県の川部駅を結ぶ、JR東日本の五能線です。全長147.2キロメートルを誇る長大路線ですが、日本海沿岸を走るその車窓風景は変化に富み、飽きることはありません。沿線には世界遺産に登録されている白神山地や、青池、黄金崎不老ふ死温泉、千畳敷など、観光スポットもたくさんあります。
五能線の人気は高く、ローカル線としては珍しく観光列車の「リゾートしらかみ」号が観光シーズンを中心に運行されています。リゾートしらかみ号には「青池」「橅」「くまげら」の3編成が用意され、大きな窓から絶景を楽しみつつ、車内では地元の工芸品や特産品などの販売、展望スペースでの津軽三味線生演奏、津軽弁「語りべ」実演イベントなどが開催され、鉄道ファンでなくても楽しめるように工夫されています。
上の作品は秋田県の沢目駅〜八森駅にあるひまわり畑。年によって咲き方に違いはありますが、休耕田を利用した広大なひまわり畑になっており、8月になると夏らしい爽やかな風景が広がります。沢目駅に近くGoogle マップにも掲載されていますので、八峰町に開花情報をご確認のうえ訪ねてみてはいかがでしょう。残念ながら写っている懐かしい車両は2021年の春に引退してしまいましたが、夏のローカル線の原風景をそのまま写すことができたようで、お気に入りの作品になりました。
このほか青森県側の川部駅〜五所川原駅の区間では、リンゴ畑が広がります。特に起点の川部駅〜藤崎駅の区間は、まさにリンゴ畑の中に線路が敷かれているので、5月になるとリンゴの可憐な花が、そして10月になるとたわわに実ったリンゴたちが、まるでぼんぼりのように幻想的に車窓を飾ってくれます。またその周辺では、勇壮な岩木山を望むことができます。リンゴ畑の奥にそそり立つ岩木山の風景は、ここでしか味わうことのできない、旅情たっぷりの車窓風景といえるでしょう。
下の、まるで特撮映画のように街を見下ろす巨大な土偶。このインパクトのある建物は、なんと五能線の木造駅の駅舎です。近くにある亀ヶ岡石器時代遺跡から出土した遮光器土偶を模した駅舎は、日本一のインスタ映え駅といえるのではないでしょうか。
下の写真は、ブサかわ犬として一躍有名になった「わさお君」。実はわさお君の暮らしていたイカ焼き店は、鰺ケ沢駅に近い五能線の線路のすぐ脇にあるのです。列車が来るタイミングに合わせて、ニッコリとほほ笑む姿は、さすがスター犬! 残念ながらわさお君は2020年6月に13歳で亡くなりましたが、今はわさお君の娘の「ちょめ」ちゃんが、観光客を迎えてくれるそうです。
いろいろ見どころの多い五能線ですが、なんといっても最大の見どころは、奇岩連なる日本海の絶景です。
上の写真は、十二湖駅〜陸奥岩崎駅にある「ガンガラ穴」と呼ばれる名所を行くシーン。車窓から見えるのは一瞬の絶景ですが、奇岩に囲まれた入り江を走る姿は、とても絵になります。秋田県のあきた白神駅付近から青森県の鰺ケ沢駅付近にかけて、ほとんどの区間で車窓から日本海の絶景を堪能できますので、川部行きの列車なら車窓左側、東能代行きの列車なら車窓右側の席に座りたいところです。なかでもおすすめは3カ所。まずはあきた白神駅と岩館駅の間にある小入川橋りょう。続いては岩館駅を出て須郷岬を越えた辺りの奇岩連なる車窓風景。そしてハイライトは深浦駅から千畳敷駅の間で、この区間はず〜っと日本海の絶景が車窓を飾ります。
旅をするならおすすめは日本海に夕日が沈む夕暮れの時間帯。車窓から日没の風景を眺めれば、日頃の疲れたココロも癒やされることでしょう。
最後にぜひ立ち寄ってもらいたい駅をご紹介。それは日本海のすぐそばにある絶景駅、驫木駅です。轟木ではなく、馬が三つで驫木と書くのは、冬の日本海の荒波の音に驚いた荷馬車の馬たちが、四方八方に逃げていったという伝説からきているとか。下車しても海以外に何もありませんが、それがまた最高なんです。のんびりと駅のベンチに座って、日本海を眺めるのは、いつまでも心に残るとてもぜいたくな時間なのです。
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〈なかいせいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。