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三洋化成ニュース No.527
2021.07.28
-- 花火はどのように作られているのでしょうか。
大きい花火だと、半球状の「玉皮」に150個から200個ずつ「星」という色付きの火薬玉を詰めます。詰め方もミリ単位で工夫しながら二つの半球を合わせて、一つの花火玉に300個から400個ほどの星を詰めるんですね。花火玉の中心に入れる割薬という火薬が爆発する時の威力によって、打ち上げた時に星が丸く広がっていくという仕組みです。その星も、星自体が蜂のように動いたり、断続的に点滅したり、燃焼時間を変えられたりといろいろな種類があります。
-- 子どもさんに人気のあるドラえもんとかミッキーマウスといったキャラクターの形の花火も同じように作っているんですか。
基本は同じです。ただキャラクター形の花火は、キャラクターを平面で仕込んでいます。打ち上げる時には球が回転しているから、見る角度や位置によっては立体的に見えないんです。10発上げて3発きれいに見えればラッキー。またワイングラスやビールジョッキの形の立体花火はどうにか作れるようになったのですが、長い時間をかけてようやく一発作れるものなので生産性は低いです。
-- そんなに大変なんですね。
ええ。その点菊型に広がる丸い花火は、球面体でどこから見てもきれいに見える。誰が見ても喜んでもらえるので、菊型の花火が主流ですね。
-- コロナ禍で使えなかった花火はどうされているんですか。
花火は1回作れば20年ぐらいは使うことができます。火薬庫の中で、火薬は乾いたり湿ったりを繰り返すことで長期的に保存することができるんです。例年、湿度が低くて良い花火ができる12月から3月にかけて集中的に作り、夏に打ち上げています。
-- 寒くて乾燥した冬に、夏に上げるための花火が生まれているんですね。
はい。経営のやり方によっても違いますが、うちの花火師は自分で作って自分で演出して打ち上げますから、夏場は作っている暇がないんです。
-- 大きなものですと、一つの花火玉を作るのにどのくらい時間がかかるのでしょうか。
追求すれば、際限なく時間をかけられます。例えば、光の粒となる星を作る工程では、配合した薬品をノリと水に混ぜて小さな芯に重ね塗りします。0.5ミリほど塗っては乾かす作業を行い、2センチの星を作るのに40日かかります。また、花火の色や光の出方は、薬品の配合比率で決まります。表現している色や光は、これまで薬品を配合して燃焼させてみる作業を何万回も繰り返して、技術を確立させてできたものなんですよ。
-- 品質の維持や向上に対して妥協しないで根気強く作業をされているのですね。現場では火薬を扱う危険も伴いますよね。
製造中と消費中、両方リスクがあります。問題はいかにリスクを管理するのかということですね。安全管理と保安管理を十分注意して何度も経験を積んで初めて成立する商売なので、誰でもすぐにできることではありません。
-- 野村さんは花火師のおうちに生まれて、初めから花火師を目指していたのですか。
親から継げと言われたわけではないのですが、家業を継ぐことに迷いはなかったです。夢のある仕事ですし、面白みもありましたから。歌舞伎なんかもそうだと思いますが、代々この家業をやっている雰囲気というか伝統というのか、歴史なんでしょうね。
-- 難しさもわかるけれど、魅力の大きいご家業ということですね。
人に感動を与えるっていうのは何より魅力のある仕事だと思います。自分が作ったものを打ち上げて、人々に観賞してもらう。爽快な仕事だから、親が黙っていても後を継いでしまうんです。
-- 経営者として心がけていることはなんですか。
そうですね、まず自分が一人の職人として仕事ができることは一つの財産だと思っています。家業に入った当初は、花火を丸く開花させることもままなりませんでした。いろいろな試行錯誤を重ねて、10年以上かけてようやく満足できるような丸い花火を作れるようになったんです。花火に関わるありとあらゆる実験データとノウハウを蓄積してきました。今まで花火師一筋で花火を作ってきたので、後輩や部下にいろいろとアドバイスができるんですね。もちろん経営者としては、社員たちに仕事を任せ、社員の力をうまく引き出すことも必要です。両方できないといけません。職人の世界ではいいものを作ることが一番大切なので、良い人材を育てるのも自分の仕事です。一番理想的なのは、技術的に自分を超える良い職人になってもらうことです。そのためにも一人ひとりの社員に責任を持たせることを意識しています。良ければ褒めるんですが、結果が悪くても何も言わない。人間はがんばったら褒められるのがうれしいし、やる気になりますから。
-- 任せてもらって、失敗しても叱られない環境づくりをしていらっしゃるんですね。どのような人が花火師に向いているのでしょうか。
以前はいい花火を作りさえすればよかったんですが、30年ぐらい前に導入された電気点火が今は主流で、デジタルの世界と職人のアナログの世界がうまくシンクロする必要があるんですね。音楽と花火をシンクロさせるために、0.01秒単位で電気信号を送ったり、パソコンでシミュレーションをしたりする技術力が必要です。
また、ストーリー性が重要視されていて、タイトルと音楽と花火の内容をうまく組み合わせることが求められています。流行歌やクラシック、ジャズなどの音楽の知識が必要とされるようになりました。花火大会のタイトルも、昔は抽象的なタイトルでよかったんですが、音楽と花火の内容にマッチしたタイトルが必要なので、文学的なセンスも求められていますね。「千の風になって」という歌を選んだ時は、銀や白っぽい花火で演出しましたし、ジャズの「イン・ザ・ムード」を採用した時は曲の雰囲気に合わせて「今宵は花火でパーティー」というタイトルを付けました。「今宵は」だと「今夜は」とちょっとニュアンスが違ってきて、ロマンチックになるんです。特に競技になると演出は重視されるので、かなり幅広い知識が必要な時代です。
あとは、今大変なこの花火の世界で生活していくんだっていうガッツの精神、これで勝負するんだっていう力強さがないとダメですね。
-- 花火大会や競技大会で花火を出品する時はどのような体制を組むのですか。
一人の職人に指揮を任せて全体を把握させないと、まとまりのある良い作品ができないですね。一人の責任者で能力のある者がリーダーシップを執って仕事を進め、例えば、曲の選定は、自分自身も含めて社員にも責任を持たせてみんなで曲を探し、どんな曲にどんな花火が合うか会議をしながら決めています。コマーシャルや映画などで使われている曲は、スムーズに入ってくる受け入れられやすい曲ですから、社会ではどんな曲が有名なのかとか、どんな曲が使われているのかという情報を、テレビを見ている時でも意識して集めています。お客さんが慣れ親しんでいる曲を使うと、非常に感動してもらえるんです。
一人のリーダーのもとでチームとして作り上げていくので、職人には協調性も重要です。自分のアイデアだけでは良いものはできません。人とのつながりも大切にできることが重要ですね。
-- 手先の器用さ、根気、粘り強さ、仕事に対する誇り、センス、それにコンピューターの技術や文学的素養、協調性も必要なんですね。
全ての素養がそろっている人はいませんから、チームを組んで補い合ったり、お互いに学び合ったりして何年もかけて成長していきます。ただ、いろんなところにアンテナを張り、情報の引き出しをたくさん持つということは重要です。求める心があれば、良いものにたどり着けます。
-- 電気点火でコンピューターが入ることによって、職人の仕事として味気なくなるということは。
それはないです。むしろ遠隔操作ができるので安全性が担保されるようになりました。シミュレーションで花火を画面上に表示し、それを見て調整しながら競技などいろんな花火大会に出している。将来はAIが作っちゃうんじゃないかってくらい、本当にデジタルな世界になっています。でも、花火は芸術といわれているので、そこは創造性という面で、まだ人間が優位な仕事かなと。感性によっていい作品ができるので、芸術はまだコンピューターに打ち勝っているかと思います。
-- 花火は遠く離れていても美しくて見事ですが、花火の音と音楽が聞こえるぐらいの近い場所で、音楽に合わせて演出された花火を見ることの感動も大きいですね。
はい。両方楽しめるのが現代の花火で、今人気があるんですね。我々が競技大会を開きながら技術を磨いてきたおかげで、日本の花火は世界最高水準にあるといわれています。
-- すごい。
新しい技術というのは次から次へと生まれてくるものです。例えば伝統的な菊型の花火も、これからどんな風に発展していくのかは全くの未知数です。いろいろな情報を集め、従業員全員で協力しながら新しいものを作る。そうやって作った良いものが職人の世界で評価されるのはうれしいですね。
-- 外国の花火と日本の花火はどのような違いがあるんですか。
世界の花火は、その8割を中国が作って輸出しています。中国の花火は輸出産業に適した大量生産できる花火で、あまり手の込んだ作りではありません。
また、日本の花火は球状ですが、ヨーロッパの花火はお茶筒みたいな円筒形で、柳みたいに打ち上がります。上空で丸く開いて力強く星が飛び出すのは日本にしかない。日本の場合は手の込んだ花火を、一発一発魂込めて作っている。いい加減さがなくて、ちゃんとしたもので皆さんに喜んでもらえるものを作ろうという職人たちの心構えに支えられています。花火の競技大会は明治時代からあって、職人同士がそれを目標にして情報を交換しながら切磋琢磨してきました。技を競うということによって、花火の技術がほかの国に負けないくらいに磨かれてきたというのは間違いなくあると思います。
-- 磨き合って競い合ってきたからこその日本の花火なんですね。
そうですね。日本の花火は技術を尽くして作っているので、種類が多くて見ていても飽きません。日本の花火は世界中で大変人気がありますよ。値段も高いのに、ロシアやアフリカなどから「なんとかお金を集めるから、ぜひとも日本から来て花火を上げてほしい」というお願いをされることもあります。
-- 高価でも野村さんの花火を見たいという人が増えていて、一つのブランドとしてどんどん価値が上がっているんですね。
花火がいろいろな国や世代を問わず人々に知られていることで、仕事の話をいただけるのはとてもうれしいですね。花火師冥利に尽きる。でも、会社の規模も考えて、今は国内の花火大会を盛り上げることに専念していますね。将来的には、花火を見るために海外の方に日本に来ていただく、観光資源の一つになればいいと思っています。
-- 日本では、花火はどうして夏のものとして定着しているのでしょうか。
花火は浴衣を着て、下駄を履いて、うちわを持って、かき氷を食べて…という雰囲気との相乗効果で夏の風物詩になっています。かき氷はやっぱり夏のほうがおいしいでしょう。それから、花火の魅力は音。花火の音によって暑さが吹っ飛んでしまうような、そういう清涼感とか、涼しさがありますね。冬は寒いですし、窓を閉め切った家の中からでは音も音楽も聞こえませんから、花火は夏がいいんです。
-- 最近の花火大会は有料席を設けることも増えてきていますが、花火大会にかかるお金はどのように捻出されているのでしょうか。
昔は地元の企業からの協賛金や行政からの補助金、後は商工会議所からの出資で成り立っていました。でも、今の花火大会は、設営費や警備費など花火以外にかかる経費が膨大になっているんです。そこで、観客の皆さんにも映画と同じように、有料の桟敷席で楽しんでいただいています。
-- やはり芸術に対してお金を払って楽しむという姿勢が、見る側にも必要なんですね。
そうですね。観客の皆さんも桟敷席なら良い花火を大迫力で長時間楽しむことができますし、収入があれば我々もそれに見合った良い花火を作ることができます。技術が大きく進歩し、これからは質の良い、新しい花火を発明していくような時代になると思っています。そのためにも桟敷席を設ける花火大会は増えていくかもしれませんね。
-- 野村さんが思う、花火の良さとはどんなものでしょうか。
花火の一番いいところは、親子やカップル、家族や友達と感動を共有できることです。花火は芸術のなかでも集客力が一番あります。夜空が舞台だから10万、20万の人があらゆるところから見られる。今は「密は駄目」だと言われていますが、密になることが花火の良さなんですね。
-- 今年の花火大会はどうなってしまうんでしょうか。
人が集まっちゃ駄目とか、3密は駄目だという状況だと、やはり花火大会の規模は小さくなってしまいますね。もし第4波、第5波が来てこの状態が何年も続けば、我々のなかにも廃業してしまう人が出るかもしれない。そうすると花火という文化が衰退してしまうんです。
-- 芸術は一度止まってしまうと復活させるのは難しいですからね。
ええ。それはなんとしても避けたい。このような状況が解決すれば、また皆さんに感動と夢を与えることができるはずです。火薬は平和に使うと花火ですが、武器として使われると兵器にもなる。豊かな国でないと、花火を上げる余裕はありません。花火は豊かさのバロメーターであり、平和の象徴なんです。日本はまだ力があるから、またきっと花火を上げられる日が来ると信じています。
-- コロナウイルスのなかで、毎年花火を見られていたのがいかに幸せなことだったかに気付かされました。日本の空に花火が戻って、皆で空を見上げられる日が今から楽しみですね。本日は、ありがとうございました。
と き:2021年3月19日
ところ:野村花火工業株式会社にて(リモートインタビュー)