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三洋化成ニュース No.528
2021.09.15
近年、睡眠と健康の関係がクローズアップされるなか、寝具にもさらなる快適性が求められています。
マットレスに使用される軟質ポリウレタンフォームの原料で、これまで課題とされてきた通気性を大幅に向上した製品を紹介します。
睡眠は、心身の疲労を回復させて勉強や仕事におけるパフォーマンスを高めるとともに、健康を維持していくための重要な要素です。
しかし、近年のライフスタイルの変化で睡眠時間は減少傾向にあり、短時間でより質の良い睡眠を求める人が増えています。また、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大防止による巣ごもりで、体を動かす機会が減ったことも影響し、質の良い睡眠へのニーズはさらに高まっています。
こうしたなか、徐々に注目を集めているのが寝具です。なかでも就寝時に体を支えるマットレスは、使う人の状態によって、反発力や柔らかさ、通気性など、多様な性能が求められており、さまざまなタイプの製品が開発され、販売されています。
マットレスのクッション材としてはいくつかの素材が使われていますが、そのなかでも代表的なものがポリウレタン樹脂を発泡させてつくる「軟質ポリウレタンフォーム」です。軟らかさや低反発感を出すポリオールと、硬さを出すイソシアネートなどを混ぜ合わせ、発泡させてつくることからフォーム(気泡、泡)と呼ばれています。
CMなどでもよく紹介されていますが、 「軟質ポリウレタンフォーム」には低反発と高反発のものがあります。高反発のフォームは、圧縮すればその分の力を跳ね返す性質があり、圧力の反動で寝返りをサポートしてくれる機能を持っています。そのためよく寝返りをうつ若者やアスリートには、高反発のポリウレタンフォームが良いとされています。
一方の低反発フォームは、肩や腰、お尻などの体重のかかる場所でも大きな力で跳ね返さず、体圧を分散させ、局部の圧迫を軽減できるという特長があります。そのため寝返りをあまりうたない高齢者などには、低反発のフォームが好まれます。三洋化成が今回開発した製品も、この低反発ポリウレタンフォームです。
低反発のポリウレタンフォームは、実は 30年以上も前にアメリカ航空宇宙局(NASA)で、宇宙船内の衝撃吸収材として開発されたものです。その後、枕やマットレスに活用され、一般的には20年ほど前から海外を中心に広がってきました。三洋化成でも約10年前から低反発フォーム用材料の開発を進め、2013年に初代の製品を発売しています。
ポリウレタンフォームが反発する力を高めたり抑えたりする機能には、その構造が関係しています。ポリウレタンフォームは、高分子同士が網目状につながった状態をしています。この分子の長さを伸ばしていくと反発力が高まり、反対に短くすると反発力は低くなります。そのため低反発フォームは、人が寝ころんだ際にゆっくり沈み込むよう、分子の長さを短く設計しています。
ただ、分子の長さを短くすると、低温時にフォームが硬くなってしまう課題があります。また、従来の低反発ポリウレタン製品では、通気性を抑制することで低反発性を発現していました。そのため、空気の通りが悪くなり、就寝時に蒸れを起こしてしまう可能性があります。この状態で通気性を上げると、低反発性が失われてしまいます。
三洋化成ではこの課題を改善するため、 低反発の性能を上げる『サンニックスFA-817C』と通気性を良くする『サンニックスFA-817T』の二つのポリオールを開発しました。 『サンニックスFA-817C』には通気性が上がっても低反発の性能が維持できるよう、分子量や網目の数を調整した粘りのある樹脂組成を開発。通気性を良くする『サンニックスFA-817T』を配合することで、低反発と通気性の両立を実現しています。
この二つのポリオールの組み合わせにより、従来品と比べて通気性は300%以上向上、低温時での硬さも約30%低減することに成功しました。
『サンニックスFA-817T』『サンニックスFA-817C』は、海外では2020年秋に低反発マットレスの素材として採用され、順調に実績を伸ばしています。
現在はさらに性能を高めていくため、クッション性や通気性といった基本性能の向上はもちろん、より使いやすい製品にするための、多様な付加価値の追加も検討しています。加えて、製造工程で出るCO2を削減できる素材や、再成形が可能なポリウレタンフォームの特性を活かしたリサイクル性の向上など、環境面に配慮した製品の研究も進めています。
また、ポリウレタンフォームは、寝具以外にも広く使われている素材なので、今後はこの新たな技術の他分野への展開も検討していく予定です。
三洋化成は、 快適な睡眠のサポートを通して、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」に貢献しています。 この技術を通して人々の健康的な暮らしに貢献するとともに、 高機能なポリウレタンフォームの開発を通して、 さまざまなニーズに対応するソリューションを提供していきます。