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三洋化成ニュース No.531
2022.03.17
国の難病にも指定されている潰瘍性大腸炎は、原因不明で完治させる治療方法がないため、 常に症状を把握し、安定した状態を保つことが重要になります。 その検査をより簡便にし、患者さんや医師の負担軽減に貢献する技術を紹介します。
潰瘍性大腸炎は、世界的にも欧米を中心に広がっている病気です。日本でも1970年代以降に患者数が急増し、2015年の国内の統計では約22万人と報告されています。そして現在も、年間1万から1万5000人のペースで右肩上がりに増え続けているといわれています。 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が起こる病気です。食べ物や遺伝的要因、腸内細菌叢に何らかの免疫異常が生じて発症しますが、何が引き金となってこのような病気になるかは、いまだに解明されていません。 症状としては、腹痛・下痢・血便・発熱などがあり、重症化すると潰瘍により腸に穴が開いたり狭くなったりすることもあります。症状が安定する「寛解」の状態と、悪くなる「再燃」を繰り返すのが特徴で、現状では完治させる治療法がありません。そのため早期に発見し、薬などで安定した状態を長く保つことが重要になります。
早期発見や定期的に症状を把握するために必要なのが、迅速で正確な検査です。これまで潰瘍性大腸炎の検査は肛門からカメラを入れる内視鏡検査が主流でしたが、何度も検査が必要になることに加え、患者数も増加していることから、患者さんや医師に大きな負担がかかっていました。そのため臨床現場からは、血液や便などを用いて人の体外で病気の有無を調べる体外診断用医薬品、いわゆる診断薬の開発が求められていました。 腸の状態を診断するうえで一つの指標となるのが「カルプロテクチン」です。血液中の白血球に含まれる物質で、体内の異物をとらえて分解する働きを持っています。腸の粘膜が炎症を起こした場合、そこを守るために白血球からカルプロテクチンが大量に放出されます。そのためカルプロテクチンが便中に存在すると腸内で炎症が起きている可能性が高く、またその量が多いほど炎症の範囲が広いと考えられます。またカルプロテクチンは便中に安定的に存在するため検査のマーカーとしても適しており、その量に応じて医師が薬の量を調整するといった対応が可能になります。 抗原・抗体を用いた検査薬に強みを持つ三洋化成では、2017年に持田製薬株式会社と共同で、スイスのBÜHLMANN Laboratories AG社から技術を導入。患者さんの便からカルプロテクチンの量を測定する『カルプロテクチン モチダ』を発売しました。
『カルプロテクチン モチダ』は「ELISA法」という測定方法を採用しています。便を用いて体外での検査が可能になるとともに一度に大量の検体を検査できるメリットがありますが、病院ではなく主に検査機関でご使用いただいていることから、検査結果が出るまでに1週間ほどを要していました。そのため患者さんには、何度も病院に足を運んでもらう必要がありました。 そこで三洋化成では、持田製薬株式会社、日水製薬株式会社と共同で、より手軽に計測できる『カルプロテクチン POCT モチダ』を開発し、2021年3月に発売しました。これは妊娠検査薬などで採用されている「イムノクロマト法」を用いたもの。専用のカセットに検体を入れ、現れる線の濃度を機器で測定することで、カルプロテクチンの濃度を判定します。カセットは名刺より少し小さいサイズ、装置もB5のノートパソコン程度とコンパクトなため、臨床現場での検査が可能です。そのうえ反応時間も12分と短いので、患者さんに30分程度お待ちいただくだけで、受診当日に結果がわかり、医師もより迅速な対応ができるようになっています。
両製品とも、これまで必要とされてきた内視鏡検査の回数を減らせるため、患者さんの負担や医師の手間を大幅に軽減することができます。また患者数が年々増加しているなかで、近年課題となっている医療費の削減にも貢献できるメリットもあります。さらに『カルプロテクチン POCT モチダ』は、診療当日に検査結果がわかることから、現場の医師からも高く評価されています。 二つの診断薬を確立させたことで、潰瘍性大腸炎の検査技術を大きく前進させた三洋化成。今後も得意分野である抗原・抗体を用いた免疫検査薬の技術を生かしながら、早期に、より短時間での検査ができる診断薬を開発するとともに、さまざまな病気に対する新たな検査項目の開発で、SDGs3番「すべての人に健康と福祉を」に貢献していきます。