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環境対応型衣料用洗剤基剤

三洋化成ニュース No.533

環境対応型衣料用洗剤基剤

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2022.07.19

界面活性剤事業本部 研究部 生活研究グループ

ユニットチーフ 吉岡 浩太郎

[お問い合わせ先]
界面活性剤事業本部 営業部

 

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2020年の経済産業省の統計データによると、国内の衣料用洗剤市場は、販売数量から見ると横ばい傾向であるが、ドラム式洗濯機の普及や、コンパクト型液体洗剤の普及に伴い、液体洗剤比率は年々伸び続けている。

また、世界的に安全、環境への関心が高まっており、液体洗剤にも環境負荷の低減が求められている。

本稿では、衣料用液体洗剤基剤として、当社が独自に開発した、環境負荷軽減に貢献できる特徴のある非イオン界面活性剤『エマルミン CS-100W』『ミセランド SCD-100(開発品)』を中心に紹介する。

 

衣料用液体洗剤の成分

衣料用洗剤の代表的な構成成分を(表1)に示す。主成分である洗剤基剤は、汚れに対して界面張力を低下させ、除去する働きを担う。一般的に、衣類に付着する汚れは、皮脂を主体とする油脂汚れやたんぱく質汚れ、泥などの無機汚れからなる複合汚れであるため、洗剤基剤にはこれらの汚れに効果的な非イオン界面活性剤とアニオン界面活性剤が併用される。

 

非イオン界面活性剤は、一般に、アニオン界面活性剤に比べて臨界ミセル濃度(c.m.c.)が低く、油脂に対する界面張力低下能が高いため、少量で優れた洗浄力を示す。洗浄力は水の硬度の影響を受けにくく、低起泡性ですすぎ性に優れるなどの点から、液体洗剤の主基剤に用いられる。具体的には、高級アルコールのエチレンオキシド(EO)付加物(AE)や、洗濯時の泡立ちを抑え液体洗剤の低温流動性を向上させるため一部にプロピレンオキシド(PO)を付加したものなどがある。

一方、アニオン界面活性剤は、乳化、分散性、汚れの再付着防止性に優れ、無機汚れに対する洗浄力が高い。一般にアニオン界面活性剤は、その洗浄力が水の硬度に影響されやすいが、液体洗剤には、そのなかでも比較的影響の少ないものが使用される。(表2)に衣料用洗剤に使用される代表的な界面活性剤を示す。

 

衣料用洗剤には、これらの洗剤基剤のほか、洗浄力を向上させる助剤(ビルダー)や酵素、添加剤などが配合される。ビルダーは、それ自身は界面活性能を持たないが、洗浄力を向上させるための重要な成分である。洗浄力が硬水や電解質の影響を受けないよう、アルカリ緩衝、水や汚れに含まれる金属イオンの封鎖、汚れの分散、再付着防止などのはたらきをする。

酵素は、たんぱく質、脂質、デンプンなどの汚れを分解する目的で配合される。

そのほかに蛍光増白剤、漂白剤、可溶化剤、pH調整剤、防腐剤、色素、香料なども配合されている。

液体洗剤の場合、その最大の特徴である「外観が液状」であることを実現するため、配合できる成分に制約がある。例えば、粉末洗剤で大きな役割を果たす、無機アルカリやゼオライトなどのビルダーは、流動性を低下させてしまうため、液体洗剤には使用しづらい。そのため、クエン酸塩などの多価カルボン酸塩やアルカノールアミンなどの有機アルカリなどが使用される。このように、液体洗剤は、液体ならではの制約があるため、使用する洗剤基剤そのものやビルダーなどの添加剤、配合比率に工夫が凝らされている。

当社は液体洗剤基剤として、各種界面活性剤を取りそろえているが(表3)、そのなかでも、衣料用液体洗剤の主要成分であり、高機能化に大きな役割を担う非イオン界面活性剤に絞って紹介する。

 

当社の非イオン界面活性剤系衣料用液体洗剤基剤

当社は、代表的な非イオン界面活性剤系の衣料用液体洗剤基剤である、ラウリルアルコールのEO付加物の『エマルミン NL』シリーズを上市している。また、当社独自の合成技術を用いてEOの付加モル分布を従来品より狭くし、洗浄力、乳化力、浸透力が向上した『ナロアクティー CL、ID』シリーズ、二級アルコールのEO付加物とすることで浸透力が向上した『サンノニック SS』シリーズ、低温流動性に優れる『サンノニック FN』シリーズなどを取りそろえている。

衣料用洗剤において対象となる汚れの一つである皮脂汚れの主成分は、脂肪酸やトリグリセリドなどであり、これらを除去することが洗浄力向上のポイントとなる。当社は洗浄力を高めるべく、一般的なAEの親水鎖であるEOの一部を、やや疎水性の高いPOに置き換えることで、油脂との親和性を高くした『エマルミン FL』シリーズを上市している。

 

環境負荷低減に貢献する洗剤基剤

(1)洗浄力、生分解性に優れた洗剤基剤

衣料用洗剤では、洗浄力などの基本性能に加え、生分解性や高濃度化など、環境に配慮した洗剤基剤のニーズが高まっている。

洗浄力を向上させるため、油脂との親和性を高める方策をとると、通常は生分解性と相反関係となる。当社は、独自の界面活性剤設計技術を活かして、AEの優れた生分解性を大きく低下させることなく、洗浄力の向上を実現させた『エマルミン CS-100W』を開発・上市している。『エマルミン CS-100W』は『エマルミン FL』シリーズと同様、AEのEOの一部をPOに置き換えたポリオキシアルキレンアルキルエーテルであるにもかかわらず、その分子構造の最適化により生分解性を大幅に向上させることに成功したものである。

(2)洗浄力、生分解性に優れ、濃縮・コンパクト洗剤に適した洗剤基剤

近年、液体洗剤は、包装材料や1回当たりの使用量低減につながる、濃縮・コンパクト化が進んでおり、界面活性剤を高濃度で配合するためには、低温時の流動性に優れていることが求められている。当社では、ほかの非イオン界面活性剤と比較して、少量でも高い洗浄力を発揮できる、アミン系非イオン界面活性剤『ピュアミール』シリーズをラインアップしている。しかし、『ピュアミール』シリーズは、第一級アルキルアミンのアルキレンオキシド付加物で、一般的なAEに比較して、生分解性に劣る。一方、生分解性に優れるAEや、その一部をPOに置き換えたものは、低温でゲル化するため、濃縮洗剤には適しておらず、環境への配慮の観点から、洗浄力、生分解性に優れ、高濃度化を可能にする洗剤基剤が求められていた。

そこで当社は、これらの要求性能を満足すべく、独自に設計したポリオキシアルキレンアルキルエーテル『ミセランド SCD-100』を開発した。『ミセランド SCD-100』は、従来のAEと同様に生分解性に優れており、低濃度における界面張力低下能に優れる。(図1、2)また、低温時の流動性に関しても『ピュアミール』シリーズ同等の性能を示し(図3)、高濃度化が可能であるため、当社従来品に比べて環境負荷が低減できる。

 

なお、本稿では、界面活性剤の使用(排出)による環境への負荷を考えるに当たり、製品の生分解性、環境への排出量を考慮した当社独自の指標「環境配慮度」(式1)を用いて評価した。高い洗浄力を持ち、使用量が少量で済む(環境への排出量が少ない)製品であれば、たとえ同じ生分解性を持つ界面活性剤でも「環境配慮度」は高い水準となる。(図4)

 

今回開発した『ミセランドSCD-100』は、洗浄力や生分解性に優れ、濃縮・コンパクト化に適した洗剤基剤であるため、これからの持続可能な社会に必要な環境負荷低減に貢献できる界面活性剤であるといえる。

(3)バイオマス原料への置き換え

環境負荷低減は、世界全体で取り組むべき課題であり、製品の性能向上だけでなく、サプライチェーン全体でも考えていく必要がある。

日本は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を2020年10月に宣言し、また2021年4月には2030年度のGHG(温室効果ガス)排出量を2013年度比で46%削減することを表明している。

当社では合成高級アルコール系の非イオン界面活性剤も多数ラインアップしているが、カーボンニュートラル実現に向けて、今後はバイオマス原料への置き換えを進めていく必要がある。合成高級アルコールを原料とする当社製品『サンノニックFN』を例に、原料を天然アルコール(バイオマス原料)に置き換えた場合を仮定して、原料調達から、製造、廃棄に至るCO2排出量を指標に環境負荷を評価した。(表4)

 

天然アルコールを原料に用いる界面活性剤は、植物から天然アルコールを製造する工程にエネルギーを必要とするため、CO2排出量は合成アルコールに比較して多い。しかし、天然原料は植物の成長過程で、大気中のCO2を光合成により植物体に固定化しており、CO2の廃棄時排出量分をカーボンニュートラルとして低減できるため、トータルのCO2排出量はマイナスとなり、環境負荷低減に貢献することができる。カーボンニュートラルは決して簡単に達成できる課題ではない。実現のためには、産業界、消費者から政府まで、国民各層が総力を挙げて取り組む必要があると考える。

 

今後の課題

これまで述べてきた通り、環境負荷低減に貢献できる洗剤基剤のニーズはますます拡大していくと考えられる。また、汚れの蓄積や残留する菌などに起因するニオイを防止するなど、高機能化のニーズも強くなっている。当社はこれらのニーズに対応した高性能で、かつ環境に優しい衣料用洗剤基剤の開発を今後も進めていく。

 

 

当社製品をお取り扱いいただく際は、当社営業までお問い合わせください。また必ず「安全データシート」(SDS)を事前にお読みください。
使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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