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三洋化成ニュース No.535
2022.11.28
今回はイタリアのミラノから、ミラノ中央駅とトラムのある風景をご紹介します。
近代建築の3大巨匠の一人として有名な建築家フランク・ロイド・ライトが「世界で最も美しい駅」と称賛したミラノ中央駅。リバティ様式やアール・デコなど混合様式である駅舎は、まるで建物そのものが美術館か大聖堂のよう。ヨーロッパ各都市のターミナル駅は、その国の権力を象徴する存在なのですが、このミラノ中央駅もご多分に漏れず建設当時首相だったベニート・ムッソリーニの意向によって、権威主義的なデザインが付加された荘厳で豪華なデザインとなりました。
僕が初めて訪ねた時まず驚いたのは、その規模の大きさ。ミラノ中央駅舎前面の幅はなんと200メートル、そして天井高は72メートルもあるため、日本の駅舎サイズに慣れてしまっている僕は、一歩入っただけで圧倒されてしまいました。
さらに圧倒されるのはプラットホーム部分に架かるトレインシェッド。いわゆるホームに架かる鉄とガラスでできたカマボコ型の屋根なのですが、そのサイズが全長341メートル、6万6千平方メートルという信じられない大きさになっています。上の作品の列車のサイズに注目してもらうと、そのサイズ感がわかると思いますが、訪ねるたびに「デカっ!」と思わず声を上げてしまいます。
駅舎とプラットホームだけでなく、発着する列車のデザインや、ホームを行き交う乗客やスタッフのファッション、時刻表掲示板に至るまで、とにかくオシャレ! どこにレンズを向けても絵になります。
ローマ・テルミニ駅に次いでイタリアで2番目に乗降客数が多いミラノ中央駅には、国内列車だけでなく国際列車を含めて1日に約500本の列車が発着しています。
中でも目を引くのが、真っ赤なボディーを持つ高速列車ITALO。かのフェラーリの会長であるモンテツェモロ氏が創業したことで「フェラーリ特急」と呼ばれるITALOは、トレニタリア(旧イタリア国鉄)の線路を借りて、民間運行事業者がユニークな試みとして走らせている豪華な高速列車です。
もちろんトレニタリアにもほぼ同じ区間を走る「フレッチャロッサ」という高速列車があるため、お互いが切磋琢磨してサービスや料金を競い合うという、乗客にはうれしい現象も起きています。
日本よりもかなり柔軟なイタリアの鉄道。日本の新幹線にも、こんな列車を走らせる企業が登場したらいいのになぁ。
続いてご紹介するのはミラノのトラム。ミラノには33系統、総延長にして100キロメートルを超えるトラムが健在です。新旧さまざまな車両がありますが、僕のおすすめは1500形というレトロな車両。この車両が誕生したのはなんと1928年なので、イタリア語で「28」を意味するヴェントット(Ventotto)という愛称で親しまれています。90年以上住民の足として走り続けたトラムは実にフォトジェニック。
まるでタイムスリップしたかのようなミラノの市電旅情を、モノクロ写真で組み写真にしてみました。上の写真は電停でキスするカップル。2人の口唇が離れるまで忍耐強く待ち続ける運転士さん、偉いよなぁ(笑)。下の車内で撮った親子の写真は、映画のワンシーンみたいでしょ?
そんな旅情たっぷりでレトロなミラノのトラムは、観光客に大人気。つい夢中で撮影してしまいがちですが、くれぐれも注意したいのがミラノ名物ともいえるスリや置き引きです。空いている車両ならまだ安心ですが、観光客で混み合ったトラムやドゥオモ広場などの観光地は大変危険。肩をたたかれたり、陽気に話しかけられたりしたら、まずはスリだと思い、返事するより先に持ち物を守りましょう。
なんて偉そうに言う僕にも、冷や汗ものの思い出があります。緊張感とともにトラムやドゥオモ広場を撮影しミラノ中央駅に戻った僕は、ほっとしつつベンチで水を飲んでいました。ベンチの背後は芝で、その奥はロータリーの道路になっている安心感もあり油断していたのですが、ふと気配を感じて振り返ると、なんと泥棒が僕のカメラバッグを持っているではあ〜りませんか! バッチリ目が合った瞬間、「オオィィッ!」という自分でも自分の声とは思えないような、藤岡弘、バリの大声を出した僕。その声にビクッとした泥棒はその場所にカメラバッグを落とし、走り去っていきました。バッグの中には発売前のカメラ一式とパスポートが入っていたので、もしあのままロータリー方面に走っていかれたら、終わっていました。その一部始終を見ていた周囲のタクシードライバーから「ブラボー!」をいただきましたが(笑)、肝が冷えた体験になりました。
そんなスリリングな体験も、駅で感じた旅情も、今となっては良い思い出。またミラノの街を撮影できる日を心待ちにしています。
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〈過去にゆる鉄ファインダーでご紹介した写真をこちらからご覧いただけます〉
〈なかい せいや〉1967年東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道に関わる全てのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影する。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。著書・写真集に『1日1鉄!』『デジタル一眼レフカメラと写真の教科書』など多数。株式会社フォート・ナカイ代表。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。