MENU
三洋化成ニュース No.536
2023.01.23
久しぶりに玉のよく出るパチンコ台に巡り合った時、どの段階でプレイをやめるかを判断するのは意外と難しいものです。大当たりして、デカ箱何箱分も玉が出ているのだから、このまま続けていたほうがいいだろうと続けていたら少しずつ出なくなって、結局空になってしまった苦い経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。
株や為替も売り時、買い時を見定めるのはプロにとってもなかなか難しいのです。
このように、投資や賭け事を行う時、数学的に見て、最高なやめ時を考える問題を〝最適停止の問題〞といいます。
以前、NHK Eテレの番組で中高生たちに数学の威力を伝えたいと考え、この最適停止の問題を扱ったことがあります。パチンコや株の売買の話では子どもたちには難しいと考え、彼らが関心を持ちやすいナンパの問題にしようと思いました。すなわち、「道ですれ違う異性をナンパする時、どのような戦略に従うと自分の好みの異性をハントできるか?」。
しかし、番組ディレクターからナンパは教育的に好ましくないと却下されてしまいました。それでは、お見合いの問題にしたらどうかと考えたのですが、現代の子どもたちはお見合いをよく知らないのではないかとこれも却下されてしまいました。結局、番組では「回転寿司の問題」になりました。
今回は会社で実際に役立つ「面接の問題」として解説しましょう。
ある会社で社員1人を募集することになりました。20人の応募者があったので、1日に1人ずつ20日にわたって面接試験を行うことにしました。なるべく点数の高い人を採用したいとします。20人全員を面接した後に最高点の1人を採用するのが、もちろんベストです。しかし、お互いの時間節約のため、面接直後に採否を相手に伝えなければなりません。採用する人が決まった時点で会社は面接試験を打ち切ります。そのため、採用の戦略を上手に立てなければなりません。
例えば、最初に面接に来た85点の人を採用してしまったら、実は後から面接予定の人の中に90点以上の人が続出なんていうこともあり得ます。逆に、面接日が後のほうで面接に来る人の中に良い点数の人がいるだろうと期待し、初めのほうで面接した人を次々断ってしまったら、応募者の点数がだんだん低くなり、初めのほうの人を採用しておけばよかった、なんてこともあります。
このような面接試験を行う場合、20人の中から1人選ぶ場合に最適な方法を、確率を駆使し、コンピュータで求めることができます。
(1)最初の5人は点数を付けるだけで採用しない。
(2)6〜10番目にやって来た応募者については、そこまでの中で最高点の人ならば採用する。
(3)11、12、13番目にやってきた応募者については、そこまでの中で2位以内ならば採用する。
(4)14、15番目にやって来た応募者については、そこまでの中で3位以内ならば採用する。
(5)16番目の応募者は、そこまでの中で4位以内ならば採用する。
(6)17番目の応募者は、そこまでの中で5位以内ならば採用する。
(7)18番目の応募者は、そこまでの中で7位以内ならば採用する。
(8)19番目の応募者は、そこまでの中で10位以内ならば採用する。
(9)とうとう最後の応募者になってしまったら、その人が何点でもその人を採用する。
この戦略に従って応募者を採用すると、平均は3.00173となり、平均してほぼ3位以内の応募者を採用することができます。応募者が20人でなく、何百人になっても、同様な戦略をコンピュータで作成することができます。その戦略に従って採用すれば平均4位以内の応募者を採用できるのです。
さて、前述の戦略に従って採用するとした時、20人中の何位の人が選べるかを、あなたも試してみてはいかがですか? まず、ランダムに20個の数を選び、それらを選んだ順に並べて書いてください。例えば、
45、75、28、-5、85、25、74、-28、62、62 34、24、45、11、32、27、76、7、13、120
(注)100点満点でなくても可、負の数があってもよい。
この場合は、上の戦略に従うと、17番目の応募者(76点)で、20人中3位の人が選ばれることになります。
1946年 東京生まれ。数学者/理学博士。東京理科大学応用数学科卒業(1969年)、上智大学大学院数学科を修了後、ミシガン大学数学客員研究員、米国AT&Tベル研究所科学コンサルタント(非常勤)、日本医大助教授、東海大学開発研究所所長、科学技術庁参与、文部省教育課程審議会委員、NHKラジオ・テレビ講座講師などを経て、現在に至る。ヨーロッパ科学アカデミー会員(2007年)、日本数学会出版賞受賞(2016年)、コロンブス騎士勲章受章(2021年)。現在は東京理科大学の栄誉教授を務め、離散数学の研究と世界各地で数学啓発活動に尽力している。