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三洋化成ニュース No.527
2023.01.09
前回、怒りは大切なものを守るための防衛感情であることを紹介しましたが、今回は怒りが生まれるメカニズムについて詳しく解説していきます。普段自分が感じているイライラやむしゃくしゃするといった怒りが、どのように生まれているのか、仕組みを理解していきましょう。仕組みを理解することは、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングであるアンガーマネジメント上達への第一歩です。
怒りが生まれるメカニズムは、ライターで炎を燃え上がらせることに例えて説明することができます。
ライターの燃えている炎が怒りです。ライターで炎を燃え上がらせるためには、まず着火スイッチをカチッと押して火花を散らします。そしてその火花がガスに引火することで炎が燃え上がります。
怒りが生まれるメカニズムに置き換えると、着火スイッチをカチッと押すことに当たるのが、自分が信じている「〜べき」が裏切られることです。
例えば、自粛をするべき、人の話は聞くべき、仕事はこうするべき、家庭はこうあるべきといったものが挙げられます。こうした「〜べき」は自覚しているものもあれば、無自覚に何となくそう思っているものもあります。
自粛していない人を見てイラッとするのは、自分のなかの「自粛するべき」が裏切られたからであり、これがまさにライターでいうところの着火スイッチをカチッと押した瞬間なのです。
私たちは実に多くの「〜べき」を持っているのですが「〜べき」は自分にとっての理想や願望などを表します。理想や願望なのですから、当然自分にとって大切なものです。つまり「〜べき」が裏切られることは、自分が大切にしている理想や願望に傷が付くことを意味しているのです。
だから、人は「〜べき」が裏切られた時、怒りの火花を散らし、自分が大切にしているものを守ろうとします。これが怒りが防衛感情だといわれる理由です。
ここまでであれば軽くイラッとする程度で済みます。ところが、私たちは時に、さらに強く怒ることがあります。それは、イラッとすることで散った火花がガスに引火するからです。
引火するガスとなるのが、マイナスな感情や状態です。マイナスな感情は、寂しい、苦しい、悲しい、孤独、不安といったものです。マイナスな状態は、疲れている、寝不足、空腹、ストレス、身体の具合が悪いといったものが挙げられます。
つまり、イラッとして怒りの火花が散った時に、マイナスな感情や状態が大きければ、それはガスがたくさんあることを意味するため、そのガスに火花が引火して大きな怒りの炎を燃え上がらせることになるのです。
逆に言えば、マイナスな感情や状態がそれほど多くなければ、イラッとしたとしても引火するガスがないので、そこまで大きな怒りの炎にはなりません。
あなたにはこんな経験はありませんか。「〜べき」が裏切られたとしても、普段は軽くイラッとするだけで済むのに、今日はとにかく頭にきて仕方がないということが。
例えば、子どもが部屋を散らかした時にイラっとするのは「部屋は片付けるべき」が裏切られたためです。そして、普段はそれほど頭にこない場合でもマイナスな感情や状態が大きい時にはとても強く腹が立ち、子どもに強く怒ってしまうといったことが起きます。
アンガーマネジメントの専門家として、どうしてこんなに社会には怒っている人が増えているのか?とよく質問を受けます。その答えは、怒りのライターモデルから簡単に説明ができます。
この1年強の間、コロナ禍が続いています。コロナ禍では、先行きが見えないことから不安を感じている人が多く、また、ニューノーマルといわれる生活スタイルに対し、強くストレスを感じている人が多いです。これは言い換えれば、マイナスな感情や状態のガスをいっぱいためている人が多いということです。
そのため、以前であれば軽く流せていたようなことでも、引火するガスをため込んでいるので、大きく怒りの炎を燃え上がらせ、そこら中で怒る人が増えてしまっているのです。
自分が怒りを感じる時、どのような「〜べき」が裏切られたことで怒りの火花が散り、そしてどのようなマイナスな感情・状態のガスに引火しているのか考えてみましょう。自分の怒りがどのように生まれているのかを客観的に見ることができれば、今までよりも上手に自分の怒りに向き合うことができます。
ではどうすれば無駄に怒りの炎を大きく燃え上がらせずに済むのでしょうか。方法は二つあります。それは「〜べき」が裏切られる回数を減らすことと、マイナスな感情や状態を小さくすることです。
次回、どのようにすれば「〜べき」が裏切られる回数を減らすことができるのか、あるいはマイナスな感情や状態を小さくすることができるのかについて、詳しく解説します。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。