MENU
三洋化成ニュース No.528
2023.01.09
前回、怒りが生まれるメカニズムをライターに例えて説明しました。自分が信じている「〜べき」が裏切られることで怒りの火花が散り、寂しい、苦しい、悲しい、孤独、不安といったマイナス感情、疲れている、寝不足、ストレスといったマイナス状態がガスとなって燃料として送り込まれ、怒りの炎を大きく燃え上がらせるのでした。
この怒りのメカニズムからわかることは、無駄に怒らないためにできることは二つあるということです。それは、1.「〜べき」が裏切られる回数を減らすこと、2.マイナス感情・状態を小さくすること、です。
「〜べき」が裏切られる回数を減らすことは、怒りの火花が散る回数が減るということです。そもそも怒りの火花が散ることがなければ、怒りの炎が大きく燃え上がることはありません。
マイナス感情・状態を小さくすることは、仮に怒りの火花が散ったとしても、それを大きく燃え上がらせる燃料が少なくなることを指し、燃料がなければ怒りの炎は大きくはなりません。
では、どうすれば「〜べき」が裏切られる回数を減らすことができるのか、またマイナス感情・状態を小さくすることができるのか、今回はその方法を紹介します。
AさんもBさんも「時間を守るべき」と考えています。Aさんは10時集合であれば10時までに来ることが許容範囲です。さらにいえば多少の遅刻は大目に見てもいいかくらいに思っています。一方のBさんは約束の時間の10分前に来るべきだと考えていますし、それを1分でも遅れるのは絶対に許せないことだとかたくなに考えています。
さて、AさんとBさんとではどちらのほうが「〜べき」が裏切られる回数が多くなるでしょうか。
これはもう、答えは簡単ですね。「〜べき」が裏切られる回数はBさんのほうが多くなります。なぜならば、Bさんの「時間を守るべき」は厳密で少しのズレも許さないからです。一方でAさんは同じように「時間を守るべき」と思っていても、その許容度はBさんと比べると大きいです。
「〜べき」が裏切られる回数を減らすことは、物事に対する許容度を上げることです。まあこれくらいなら許してもいいかと思える範囲を広げることで「〜べき」が裏切られる回数が減り、イラッとする回数が減ります。
許容度を上げるためには「せめて」という言葉を使ってみましょう。「せめて」どうであれば許せるかを考える癖をつけるのです。「せめて」が意味するのは、自分の許容度の最大限です。自分の許せる最大限をいつも考えることで、許容度を少しずつ大きくすることができ、イラッとする回数も減ります。
ここで誤解をしてほしくないのは、アンガーマネジメントは怒らないことではありませんので、何でも許せという意味ではないということです。絶対に譲れないものは怒ればよいのです。
マイナス感情を小さくするには、マイナス感情の原因になっているものから遠ざかることが一番です。不安はマイナス感情のなかでも大きなものですが、例えばコロナ禍について大きな不安を感じているのであれば、コロナ禍について必要以上に情報を見聞きしないことです。
不安だから情報を集めたくなるのが人情とは理解できますが、情報を集めると、わからないところが余計に増えるのでかえって不安になるという悪循環に陥ります。思い切って情報から遠ざかることも考えてみましょう。
マイナス状態を小さくするには、体のコンディションを整えるために健康的な生活をすることが一番です。健康な人と不健康な人を比べた場合、不健康な人のほうが怒りやすくなります。体の具合が悪い時のほうが機嫌が悪くなることは誰もが思い当たるのではないでしょうか。
健康になるには、よくいわれているように適切な食事、適度な運動、質の良い睡眠を心がけることが一番です。ある意味、健康でいることは最強のアンガーマネジメントなのです。
今回の振り返りです。無駄に怒りの炎を燃え上がらせないために「〜べき」を緩めてみましょう。キーワードは「せめて」です。怒りの火花が散ったら「せめて」どうであれば許せるのか考えてみてください。
そしてマイナス感情・状態を小さくするために、マイナス感情の原因となるものから遠ざかり、健康的な生活を送りましょう。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。