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三洋化成ニュース No.537
2023.03.16
アンガーマネジメントは怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング、もしくは怒りの感情で後悔をしなくなること、と紹介をしてきました。
確かに怒りの感情と上手に付き合えるようになり、怒りで後悔をしなくなれば、日々の生活や仕事が楽になり、今よりもストレスなく生きることができます。
アンガーマネジメントは怒りに焦点を当てていますが、実際のところは、怒り以外にもうれしい、楽しい、ほっとする、悲しい、不安、心配といったあらゆる自分の気持ちを理解するための取り組みです。
なぜ自分の気持ちを理解するのかといえば、それは自分自身を理解することにほかならないからです。
何をしたいのかわからない、何をしてよいのかわからないという悩みを持つ人は案外多いものです。例えば「特にしたいことがわからないから就職先を見つけられない」「日々したいことが明確にないから毎日が退屈」といった悩みです。何かしたいことがあり、それに夢中になっている人は少数派なのかもしれないと思うこともあります。
何がしたいのかわからない人は、自分の「快」という気持ちがわからない人です。もしくは快についての感覚が鈍いともいえます。自分が何をしていて楽しいか、何をしたら自分が喜ぶかについて深く理解していれば、何をすればよいのかは簡単にわかるので、何をしたいのかわからないという悩みは持ちません。
私たちは子どもの頃から他人の気持ちを理解しなさい、察しなさいと口酸っぱく言われてきました。社会で円滑に生きていくためには他人と仲良くすることが必要だと強く思っているからです。
もちろん、他人の気持ちを理解することは円滑なコミュニケーションや良好な人間関係を築くためにとても大切です。ただ、それが本当にできるのは自分のことを理解している人です。自分のことを理解せずに他人を理解しようとしてもうまくはいきません。なぜなら、自分という1番身近な人を理解できない人が、自分とは違う人を理解することは相当にハードルが高いからです。
スマートフォンを例に取りましょう。どんなに優秀なアプリケーションも、それを動かすOS(iOS、アンドロイドなどのオペレーションシステム)が安定していなければ正しく動きません。同様に、自分の気持ちを理解することは自分自身を安定させることにつながります。人は感情によって考え方や行動が大きく左右される生き物です。自分の気持ちが理解できていなければ、自分自身を安定させることができません。
安定していないところで勉強、仕事、育児、人間関係などを円滑に進めようとしても、土台がぐらぐらしているのですからうまくはいきません。
アンガーマネジメントを通して取り組んでいることは自分の気持ちを理解することで、自分、つまりは自分の人生の安定した土台をつくることなのです。そのために本稿で紹介してきたアンガーマネジメントのさまざまなテクニックに取り組むのです。結局のところ、アンガーマネジメントは自己理解を深めるためのトレーニングです。
アンガーマネジメントに取り組む際、怒りの問題や課題に取り組むということでもよいのですが、自分とは一体何なのか、何をしたいのか、どこへ行きたいのか、それを理解するために取り組んでいるということを意識してみてください。
約2年にわたり連載をしてきました本稿も、今回が最終回となりました。これまでアンガーマネジメントに関する知見が読者の皆様の日々の生活、仕事のなかでのヒントになるよう書いてきたつもりです。本稿の内容が少しでも皆様のより良い生活のためのヒントとなれば誠に幸甚です。
アンガーマネジメントはトレーニングです。練習すれば誰でも上達できます。その進歩具合は人によってさまざまですが、他人のことは気にせず、あくまでも自分のペースで気楽な気持ちで続けることが上達の近道です。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。日本におけるアンガーマネジメントの第一人者。アメリカのナショナルアンガーマネジメント協会では15人しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人としてただ一人選ばれている。『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)ほか著書多数。