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三洋化成ニュース No.540
2023.09.14
光造形の技術は、短時間で精細かつ表面の滑らかな造形物が得られることから幅広い分野で使用され、材料となる光硬化性樹脂も、より高性能なものが求められています。
この高性能化を支える、サンアプロの光カチオン重合開始剤を紹介します。
3Dプリンターを用いる3次元立体モデルの製作方法の一つに、光を照射して固める光造形法があります。
光造形法は、光を照射すると固まる液状の光硬化性樹脂に、光を照射して一層ずつ硬化させて積み上げる造形方法です。3D – CADのデータをもとに、レーザー光などを制御しながら照射することで、精度の高いプラスチックの3次元立体モデルを製作します。光造形法は、造形スピードが速く仕上がりが滑らかなうえ、透明な造作物や、微小なものから大型のものまで製作できるなど、多くのメリットがあります。ただ、材料の保管や造形後の後処理などに一定の手間がかかるため、主に産業用途での活用が進んできました。
現在は、電化製品をはじめ、自動車や航空機などの部品の試作に使用されるほか、金型のもととなるモデルの製作や、小ロットやオーダーメイド品の多い医療用部品の製作などにも使われており、微細なマイクロレベルのモデルを製作する研究も進んでいます。
光造形法に使用される材料は、光を照射することで重合反応が起こり、物質が固まる光硬化性樹脂です。ラジカルで重合するアクリル系のものと、カチオン(酸)で重合するエポキシ系の2つのタイプの樹脂があります。
一般的に、アクリル系は固まるスピードは速いがもろいという特性があり、エポキシ系は固まるスピードは遅いが高強度という特徴があります。身近なところでは、DIYに使う瞬間接着剤とエポキシ系接着剤の違いのようなイメージです。
それぞれの光硬化性樹脂には、光を吸収することによって分解し、重合に必要となるラジカルや酸を発生させる光重合開始剤が含まれています。なかでも、エポキシ系のカチオン重合に必要な酸を発生するものを、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)と呼んでいます。
光カチオン重合開始剤には、樹脂を速く固める硬化性が求められます。硬化性は、発生する酸の量が多いほど、また、その酸の強度が高いほど向上するため、照射される波長の光をできるだけ吸収し、より多くの強い酸を発生させるような構造に設計する必要があります。
これまで光重合に使われる光源は、波長が355ナノメートルといった高エネルギー帯の紫外線領域でのレーザー光源が一般的でしたが、近年、省エネ効果の高いLEDが普及し、光重合用にも波長が395ナノメートルや405ナノメートルなどの可視光線領域に近い近紫外LED光源が使われるようになってきました。
サンアプロではこれまでも、この波長に対応する『CPI – 400』シリーズを出していましたが、その性能をさらに高めたのが今回開発した『VC – 1』と『ES – 1』シリーズです。
『CPI – 400』シリーズは、硬化性に優れる非アンチモン系の光カチオン重合開始剤ですが、400ナノメートル以上の可視光線領域の光もわずかながら吸収するため、得られた樹脂が無色ではなく、若干黄色くなる特性があります。色味が問われないジャンルでは支障はありませんが、透明性が求められる光学用途などでは使用が制限されてしまうため、この波長に対応し、かつ樹脂本来の透明性を保つ製品が求められていました。『VC – 1』は、紫外線領域の吸収を大きくし、可視光線領域(400ナノメートル以上)の吸収を小さくすることで光カチオン重合開始剤由来の着色を最小限にして、特に樹脂の透明性を保つことを可能にしています。
一方の『ES – 1』は、各波長領域における光の吸収量は従来の『CPI – 400』シリーズと同等でありながら、光分解効率を高めることで、同じ光の吸収量でより多くの酸を発生するよう設計しており、硬化性に優れています。また、これまで非アンチモン系は溶解性が低い傾向にありましたが、『ES – 1』は溶解性が高いため、さまざまな組成系への配合を可能にしました。両製品とも、すでに少量での販売をスタートしており、いずれも量産化に向けて準備が進んでいます。
サンアプロでは2000年頃から、光造形技術の進化にあわせ、さまざまな光カチオン重合開始剤を開発してきました。そのため、各種光の波長に対応できるラインアップをそろえており、光造形のあらゆる用途、使用方法に合った製品を提供することができます。
開発した『VC – 1』『ES – 1』シリーズは、省エネ効果の高いLEDでも硬化できるため、光造形の際に使用する消費電力が削減できます。省エネはCO2の削減につながるので、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献できる技術でもあります。また、光カチオン重合開始剤の進化は当然、3Dプリンターの普及につながるため、技術革新を促す意味でも目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献しています。
現在は、紫外線〜可視光線までの光に対応した製品ラインアップが中心ですが、近赤外線などに対応できる製品も開発中です。また光カチオン重合開始剤は、半導体製造の分野などでは光酸発生剤としても活用されており、さらなる使用分野の拡大も期待されています。
サンアプロではこれからも、多彩な製品ラインアップと、新たな技術開発で、社会に貢献していきます。