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[vol.3] 仕事を追う

三洋化成ニュース No.540

[vol.3] 仕事を追う

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2023.09.14

◆楠木 建

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「仕事を追え、仕事に追われるな」

僕は経営学者ですが、企業のお手伝いをすることもあります。場合によっては長い期間にわたって手伝わせてもらうこともあります。その一つがファーストリテイリングで、仕事を始めて15年になります。

創業経営者の柳井正さんの考えを言語化し、原理原則に落とし込む。それが最初に依頼された仕事でした。自分で経営をやっているわけではないのですが「門前の小僧習わぬ経を読む」でありまして、柳井さんの話を横で繰り返し聞いているうちに、商売の原理原則を知りました。

社内の議論の場で叱られたこともあります。「経営は実行しなければ意味がない。あなたが言っていることは大学教授の評論だ!」
――実際にそうなのだから返す言葉がありません。仕方がないので「僕は評論を実行しています」と答えました。

具体的な仕事の方法論についても学んだことがあります。その一つが「仕事を追え、仕事に追われるな」です。つまりは時間軸での仕事姿勢でありまして、仕事に追われるようになるとパフォーマンスは確実に低下します。こちらから攻撃的に仕事を追うという姿勢を心がけています。

 

好きな仕事なら、自然と「仕事を追う」姿勢に

原稿を書く仕事にしても、締め切りが近付いて慌ててやるとロクなことになりません。締め切りまでに間があるうちに書いてしまい、しばらく寝かせてから推敲作業をかけるようにしています。

仕事を追う状態をキープするためには、つまるところ仕事の総量の管理が大切です。僕は一人で仕事をしているので、目の前の仕事量が自分のキャパシティーを超えないようにすることがとりわけ重要です。一定のラインを超えるような仕事は引き受けないようにしています。断るのも能力のうち、と心得ています。

どうしてもこちらから仕事を追う気にならず、仕事から追われてしまうこともあります。こうしたことが繰り返し起こる時は、その仕事が自分に向いていないと考えたほうがいい。人間誰しも得手不得手、好き嫌いはあります。そもそも嫌いで不得手な仕事を不承不承やっていても成果は出ません。その仕事が好きで得意なほかの人に代わってもらったほうが理にかなっています。逆に、好きな仕事であれば自然と仕事を追うようになります。無意識のうちに追い越してしまうこともある。仕事を追う姿勢は、自分の適性や能力のありかを知るうえでも役に立ちます。

 

脳内シミュレーションで翌週の流れを組み立てる

こちらから仕事を追いかけるようにするためには、後始末ならぬ「前始末」をつけておくことが大切です。これもまた柳井さんから学んだことです。

先日、ファーストリテイリングの仕事である役員の方と話をしている時に、面白い話を聞きました。その方は毎週日曜日に20分ほどかけて、次の月曜日からの1週間の仕事の脳内シミュレーションをしているそうです。どの日にどのような仕事がどういう順番であり、そのために自分が何をしておくべきか、1週間の流れをイメージしておくといいます。TO DOリストを作っておくというのではありません。あくまでも1週間の「流れ」で考えるというのがポイントです。「現実に月曜日からやることは僕にとって2回目の仕事です」とおっしゃっていました。これぞ前始末。

そこまでではありませんが、僕も似たようなことをやっています。その週の仕事が終わると、週末に次の1週間のスケジュールをゆっくり見て、流れのイメージを組み立てます。

この歳になると、とりわけ重要なのが仕事体力の配分です。1週間の中で負荷がかかるヤマ場がどこにあるのかを見極めて、そこに合わせてしっかり休養を取り、体調管理をするようにしています。とことん疲れる仕事があった時は、帰宅してすぐ「集中治療室」(何もやらずにひたすら横になって休む)に入るようにしています。

これを1週間単位でやる。1週間単位で仕事の量と負荷がなるべく一定の水準に収まるようにしています。ハードな日の次は少し緩くしておく。週の中で1日はテンションがかからない仕事(相手がいない仕事)だけの日をつくっておくのが理想です。無理なら、半日だけでもリラックスして仕事ができる日をつくる。

このイメージトレーニングは1週間単位でやるのがちょうどいい。向こう2週間や1カ月となると、仕事と仕事の間にある流れを具体的にイメージできなくなります。目の前の1週間に集中して、次の週のことは考えないようにしています。

これはあくまでも僕のやり方です。皆さんもそれぞれに自分の「仕事を追う」フォームを考えてみることをおすすめします。

 

楠木 建〈くすのき けん〉

経営学者。1964年、東京都出身。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同大学イノベーション研究センター助教授、一橋ビジネススクール教授などを経て、2023年から一橋ビジネススクール特任教授。専門は競争戦略。著書に『ストーリーとしての競争戦略』『絶対悲観主義』などがある。

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