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三洋化成ニュース No.511
2018.11.07
阿寒湖周辺に広がる森は、ほぼ阿寒摩周国立公園内にある。特に、阿寒湖の北部から東部にかけての雄阿寒岳山麓にあたる地域は、「特別保護地区」に指定されているので、森への立ち入りは基本的に許可されていない。しかし、国立公園特別保護地区といえども、遊歩道や登山道が整備されている場所では、気兼ねなく(もちろんルールを守って)、原始そのままの姿を今に残す森を堪能することができる。
通称「滝口」と呼ばれている阿寒湖の南東部には、雄阿寒岳の登山口がある。登山道を阿寒湖に沿ってしばらく歩き、阿寒湖から流れ出している沢を渡って、そのまま進むと太郎湖にいたる。太郎湖を見下ろして歩いていると、ところどころで地面の下からざわざわと勢いよく水が流れ出し、太郎湖へと注ぎ込んでいる。湧水ではなく、阿寒湖の水だ。さらに登山道を進むと次郎湖にたどり着く。流入河川も流出河川も持たない次郎湖も、やはり、地中で阿寒湖とつながっているという。
渓流沿いの苔むした倒木からコオトメノカサが発生
阿寒湖には二つの流れ出しがあり、いずれも南東部にある。一つはそのまま阿寒川として流れ下る。もう一つは登山道に並行して太郎湖へと流れ込み、そこから滝を思わせる急流となり、国道240号にかかる紅葉のビューポイント・滝見橋の下で、先ほどの阿寒川と合流。「完全」な阿寒川となり、はるか太平洋を目指す。
滝口付近には、木々が生えている大小19個の岩が点在しており、これを島に見立てて「十九列島」と呼ばれている。この場所は、遊覧船も周遊ルートに組み入れている、阿寒湖有数の景勝地にして、紅葉の名所だ。
雄阿寒岳の山麓にあたる、阿寒湖南東部の滝口や、太郎湖、次郎湖の周辺には、広葉樹がやや多い針広混交林が広がっている。水際には、ダケカンバ、ミズナラ、ナナカマドなどの広葉樹が多く見られ、山側に目を転じると、トドマツやアカエゾマツなど針葉樹が多くなる。春にはエゾムラサキツツジ、夏にはハクサンシャクナゲが、人知れず花を咲かせる。
きのこが発生する場所を、針葉樹、広葉樹、地面、その他(生体など)と、大きく四つに分けてみると、針広混交林の森には、その全てが存在する。多種類のきのこを見ることができる可能性が高い。 |
春から夏にかけては、多種多様な高山植物が可憐な花を咲かせる。秋になれば、木々の葉が赤や黄色に色付き、鮮やかな装いを見せてくれる。そして、声を大にしてお伝えしたい魅力なのだが、冬に、防寒着をしっかり着込み、スノーシューをはいて、一面雪に覆われたこの森を歩く楽しさときたら、もう。雪で真っ白になった木々や凍った湖面と真っ青な空の、対照的なビジュアルは鮮烈だ。冬は、地面の凹凸を積雪が解消してくれるし、クマさんは冬眠中なので、いいことずくめなのである。
しかし、いつ訪れようが、ぼくの目に入るのは、やはりきのこ。各種高山植物の葉の間、樹木の幹、倒木などなど、探すともなくきのこが目に入ってしまう。冬の間は、草花や一般的なきのこを見ることはできないが、木々の幹や枝には、サルノコシカケの仲間など、多年生のきのこがしっかり生きているし、地衣類も見ることができる。ちなみに、地衣類とは、菌類と植物(藻類、シアノバクテリアなど)の共生体で、外観がコケに似ているし「コケ」という名が付けられたりしているが、分類的には立派な菌類だ。ぼくは倒木が大好きで、見つけるとつい長居をしてしまう。まずは、きのこがいないか、端から端まで、上から下まで、眺め回す。きのこや粘菌を見つけて、気が済むまで観賞・撮影したら、次に樹皮を覆うコケや地衣類をルーペ(10倍程度)でチェックする。 同じ倒木でも、季節ごとに、あるいは経年変化で、発生するきのこの種類が違う。きのこの観賞は一期一会だ。 |
1965年群馬県生まれ。きのこ写真家。北海道の阿寒湖周辺、東北地方の白神山地や八甲田山の周辺などで、きのこや粘菌(変形菌)など、いわゆる隠花植物の撮影をしている。著書に『きのこの話』『きのこのき』『粘菌生活のススメ』『森のきのこ、きのこの森』『もりの ほうせき ねんきん』など。書籍、雑誌、WEBなどにも写真提供多数。
きのこには、食べると中毒事故を引き起こすものもあります。実際に食べられるかどうか判断する場合には、必ず専門家にご相談ください。