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木粉配合高機能テキスタイルウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)の開発

三洋化成ニュース No.541

木粉配合高機能テキスタイルウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)の開発

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2023.11.14

サンノプコ㈱ 基盤製品研究部

主任 渡辺 将浩

[お問い合わせ先]
サンノプコ㈱ スペシャリティ産業部

 

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近年、再生可能な資源である木材は持続可能で環境負荷の低い材料として注目を集めている。一方、日本は森林が国土の7割を占めるにもかかわらず、その手入れが十分に行われず、森林の機能が生かされていない1)。国産木材を活用することは、森林資源の価値を向上し、適正管理、再生産の循環につなげていくために重要である。

木材の活用例として、木粉とプラスチックを複合化したウッドプラスチックコンポジット(WPC)がある。木材の風合いを残しながらプラスチックの性質も併せ持ち、デッキ材などのエクステリア用途で多く使用されている2)。木粉は間伐材や建築資材の製材過程で生じる木くずなどの廃材を細かく粉砕したものであり3)、木粉の利用は廃木材のアップサイクルといえる。

これまでWPCは硬質なものが一般的で、柔軟な風合いを有する素材はあまり見られなかった。サンノプコ㈱は、木粉の新しい用途として、皮革(本革、合成皮革)分野で近年注目を集めている「植物由来ヴィーガンレザー」への適用を試みた4)

本稿では植物由来ヴィーガンレザーとして当社が開発したウッドレザー『MOC-TEX®』(モックテックス®)(図1)を紹介する。本開発品は木粉とバイオポリウレタン樹脂から成り、本革の見た目・質感を再現した高機能テキスタイルである。

 

植物由来ヴィーガンレザーについて

合成皮革は近年、本革と比較して動物由来でないことからヴィーガンレザーと呼ばれ、販売を拡大している。ヴィーガンレザーは現在、石油由来のものが中心であるが、サステナビリティの観点から再生可能な植物原料を使用するヴィーガンレザーが注目を集めている。

植物由来ヴィーガンレザーは、本革のようになめしを行わないため、本革より廃水や二酸化炭素発生量が少なく、製造時の環境負荷が低い。合成皮革に対しては、植物を原料に使用しているため、石油資源の使用量削減や資源循環につなげることができ、カーボンニュートラルの観点で優れている。

これまで、パイナップルの葉やリンゴの廃繊維、ブドウの搾りかす、マッシュルームの菌糸体など、さまざまな植物を原料とした植物由来ヴィーガンレザーが開発されている。『MOCTEX®』は国産木材の木くずをアップサイクルし、木質感がありながら、本革の見た目・質感を再現させたもので、これまでの植物由来ヴィーガンレザーにはない新しい素材である。

 

『MOC-TEX®』の概要

『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と同様、図2に示す3層(表皮層、接着層、基布)で構成された積層体である。それぞれの層について以下で説明する。

 

『MOC-TEX®』の表皮層には、本革に類似した弾性や柔軟性が得られるポリウレタン樹脂を用いた。環境負荷低減の観点から、植物性バイオマスを含有した水性バイオポリウレタン樹脂を開発し、これに木粉を40~60%複合することで木質感を出した。水性バイオポリウレタン樹脂のバイオマス含有分と合わせると表皮層の植物性バイオマス比率は60~80%であり、石油資源の使用量低減や資源循環の促進に貢献できる。さらに、一般的な合成皮革の表皮層用塗工液は溶剤系のため、塗工・乾燥時の臭気など、環境面で課題があるが、『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水を媒体としているため、製造時に有機溶剤臭はなく、木質の良い香りがする。

接着層や基布は、一般的な合成皮革と同様の素材が使用でき、基布としては天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維から成る織布、不織布、編布、起毛布、樹脂加工布などが使用できる。『MOC-TEX®』では基布も植物由来にこだわり、綿やレーヨンを優先的に選定している。必要により、一般的な合成皮革と同様に、表皮層の上にプリント層を設けたり、表面の耐久性を向上させる目的で表面処理層を設けたりすることもできる。

 

『MOC-TEX®』の特長

『MOC-TEX®』は木材由来の以下の特長を有する。

(1)木質感

表皮層は木材を多く含むため木材のナチュラルな色や質感を有し、一部木質繊維が表面に出ることでヌバックのような風合いを有する。木材が樹種によって色が変わるのと同様に、採用する木粉の樹種により表皮の色が異なる。また木粉以外に木材を脱色した木材パルプの粉末を使用した場合は白色にすることも可能である(図1)。保存状態が良好であれば木材おのおのの特有の香りも保持できる。

(2)吸放湿性

吸放湿性とは素材が空気中の湿気を吸収したり放出したりする機能である。一般的に本革は吸放湿性が高く蒸れにくいのに対し、合成皮革は吸放湿性が低く蒸れやすい。蒸れやすいと靴では不衛生になりやすく、スマートフォンケースやバッグなど手で長時間触れるものでは汗によるベタつきが生じるという欠点がある。『MOC-TEX®』は牛革と比べ吸湿しにくいが吸湿率に対する放湿率は75%で牛革の63%より高いため蒸れにくい(図3)。

 

(3)消臭性

消臭性とは、素材近傍の空気中における悪臭成分濃度を低減させる機能である。悪臭成分とは、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸などの汗臭や加齢臭の原因となる化合物などを指す。代表例として、アンモニアの消臭性試験を行った結果を図4に示す。『MOC-TEX®』は牛革と同様に空気中のアンモニア濃度を100ppmから検知管の検出限界(0.5ppm)以下に低下させる消臭性を有していることを確認した。

 

前述した特長を表1にまとめた。木質感、吸放湿性、消臭性というこれらの特長を生かして、家具、鞄、雑貨、アパレル、靴などへの用途展開を考えている(図5)。特に国産木材の使用にこだわった椅子、ソファへの適用は国産木材利用促進につながる。

 

 

『MOC-TEX®』の製造技術

製造プロセスも一般的な合成皮革と同様に表皮層用塗工液の作成、離型紙への塗工・乾燥、接着層用塗工液の塗工・乾燥、基布の貼り付け、巻き取りというプロセスで製造できる(図6)。

 

表皮層用塗工液作成の工程では主に木粉と水性バイオポリウレタン樹脂、水、必要により各種添加剤(分散剤、消泡剤、湿潤剤、粘弾性調整剤)を配合する。『MOC-TEX®』は一般的な合成皮革と異なり、表皮層に木粉を多く含有するため、次の観点を考慮する必要がある。

①木粉の凝集

木粉は凝集しやすい材料であり、凝集を防ぐため分散剤が使用される(図7)。凝集が生じると図7(右)のような状態となり、ハンドリングが困難となる。

 

②木粉から生じる泡

木材は細胞が寄り集まった多孔質材料であり、木粉も同様である。木粉を水に分散させると、木粉内の多孔構造中に含んでいる空気が徐々に泡として液中に出てくる。塗工時に泡が存在すると乾燥後の表皮層に円形の欠陥が生じる原因となる。そこで消泡剤が用いられるが、消泡剤の種類によってはハジキと呼ばれる塗膜欠陥の原因になることもあり、適切な消泡剤を選択する必要がある。

③塗工適性

『MOC-TEX®』の表皮層用塗工液は水性のため表面張力が高く、一般的な有機溶剤系の合成皮革表皮層用塗工液に比べてハジキなどの塗膜欠陥が生じやすく、湿潤剤や粘弾性調整剤などで塗工適性をコントロールする必要がある。

④表皮層の柔軟性

『MOC-TEX®』は本革のような柔軟性が必要である。表皮層に木粉を多く入れるほど、表皮層は硬く、折り曲げた際に割れやすくなる。その対策としてポリウレタン樹脂を柔らかくしすぎると耐摩耗性などの耐久性が低下するため、柔軟性と耐久性のバランスをとることが重要である。

 

サンノプコ㈱では、各種分散剤(『SNディスパーサント』シリーズなど5))、消泡剤(『SNデフォーマー』シリーズなど6))、湿潤剤(『SNウェット』シリーズなど)や粘弾性調整剤(『SNシックナー』シリーズなど7))を製造販売しており、これまで培った技術と経験により①~③の観点を踏まえた最適な添加剤を選定した。また、三洋化成グループは繊維、塗料、インキ、接着剤用などのポリウレタン樹脂を製造販売しており、用途に応じてポリウレタン樹脂の物性(機械物性、耐加水分解性、耐光性など)を制御する技術と経験を有している8)。④の柔軟性と耐久性を両立させるため、これらの知見を生かして最適な物性に設計した水性バイオポリウレタン樹脂を新たに開発した。

 

今後の展望

『MOC-TEX®』の技術は、2022年末のプレスリリース後、多くの反響をいただいており、現在、早期の実用化に向けた課題抽出や製造プロセス検討などを行っている。

今後も国産木材利用促進、カーボンニュートラル実現に向けて開発を進め、多くの製品に採用いただくことで、木材の魅力を伝えていきたい。

 

参考文献

  1. 中島孝雄、大島克仁、「木材の魅力・体力・底力」木の力、別冊付録第8章、日本木材加工技術協会関西支部
  2. 藤澤泰士、鈴木聡、長谷川益夫、高橋理平、富山県農林水産総合技術センター木材研究所研究報告、3、25-31(2011)
  3. 伊藤弘和、木質バイオマスのマテリアル利用・市場動向、株式会社シーエムシー出版、14-23(2015)
  4. 渡辺将浩、紙パルプ技術タイムス8月号、株式会社テックタイムス、(2023)
  5. 澤熊耕平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.507(2018)
  6. 松村陽平、パフォーマンス・ケミカルス、三洋化成ニュース、No.537(2023)
  7. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.501、9-11(2017)
  8. サンヨー・プロダクト・トピックス、三洋化成ニュース、No.517、9-11(2019)

 

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使用される用途における適性および安全性は、使用者の責任においてご判断ください。

 

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