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三洋化成ニュース No.508
2018.05.01
大量の資料でもあっという間に出来上がる複写機やプリンター。現在の複写機の原理は、1938年、アメリカで発明された電子写真方式という画像記録方式です。光と静電気を利用して一時的に作り出した静電気の像にトナー(粉体インク)を付着させ、紙に写すという方法を利用しています。活版やグラビア印刷などと異なり物理的な版が不要なため、手軽に高速で高画質な複写や印刷をすることができ、オフィス機器として広く使われています。
普段何気なく使っている複写機やプリンターですが、一枚の原稿をプリントするほんの数秒ほどの間に、機械の内部ではさまざまなことが行われています。印刷ボタンを押すと、感光体ドラムがマイナスに帯電し、その上に原稿のデジタルデータに従ってレーザー光が照射されます。感光体ドラムは光が当たると電気を通しやすくなる性質があるため、レーザー光が照射された部分の静電気だけが失われることで、原稿と同じ形の潜像が作られます。そこに粉体インクであるトナーを帯電させてふりかけると、静電気が失われた箇所にトナーが付着して、感光体ドラム上に原稿どおりの像が現れます。その像を紙に転写後、ヒートローラーで熱をかけて定着するプロセスを経て一枚のプリントが完成します。
このような複雑な動きを限られたスペースで高速かつ正確に行いながら、オフィスワークを支える複写機・プリンターですが、その高性能化にはトナーの主要材料であるトナーバインダーが重要な役割を担っています。
トナーの材料はトナーバインダーといわれる樹脂が5〜8割を占めています。この樹脂の中に、色を付けるための顔料や静電気の帯びやすさをコントロールする荷電制御剤、ヒートローラーからトナーを離れやすくするための離型剤などを分散して微細な粒子を形成させた後、搬送性や流動性を上げる流動化剤などで表面処理してトナーに仕上げます。複写機・プリンターには、高品質(画質、色再現性)、高速印刷適性だけでなく、省エネや低コスト化のための低消費電力なども求められており、そこでもトナーバインダーの性能向上が欠かせません。
トナーバインダーは、感熱型の接着剤です。従って、粉体のままでは紙の上に載っているだけでくっつきませんが、熱を加えることによって溶け、すぐに冷えて固まり、紙に定着し、画像となります。トナーバインダーに求められる熱的特性のなかで最も重要なものが、この熱による定着性です。
ヒートローラーの温度が高すぎるとトナーが溶けてローラーにくっついてしまい、低すぎるとトナーは溶融せず、粉末のまま脱落してしまいます。その結果、画像の一部が欠落したり、濃淡を生じたりします(オフセット現象)。これを避けるためには、トナーバインダーの温度―粘度の特性をコントロールして定着温度の幅を広げる必要があります。一方で、複写機内部にこもった熱によるトナーの流動性の低下・凝集を防ぐ耐熱保存性も求められます。
複写機・プリンターが使用する電力の半分以上が、トナーの定着に用いられる熱に使われるといわれて
います。近年、さらなる省エネに向け、より低い温度で溶け残りなく定するための低温定着性と、相反する性能である耐熱保存性をハイレベルで両立させる工夫がトナーバインダーに求められています。
高速・高品質印刷、省エネを陰で支えるトナーバインダーには、ほかにも顔料の分散性や電荷を維持する帯電性、摩擦によって帯電させる際のストレスに耐える耐久性、感光体ドラムからのクリーニング性などさまざまな特性が求められます。さらに、カラー印刷用のトナーバインダーには、光沢を出すために光が乱反射しないよう、紙面上に均一に溶けて広がる平滑性も加えられています。このように、さまざまな特性を同時に最適化する高度な設計技術が必須となっています。
三洋化成は複写機用トナーバインダー『ハイマー』シリーズを提供しています。豊富な経験と優れた高分子合成技術を活かし、お客様のニーズにきめ細かくお応えしています。近年、ITの発達によりペーパーレス化が進んでいますが、オフィス需要に加えて、デジタルラベル印刷やオンデマンド印刷など商業印刷分野でのニーズが高まるなど、世界的に見ると複写機・プリンターへの要望は今後も続くと予想されます。三洋化成が誇る高分子合成技術を活かし、より高品質で耐久性に優れたトナーバインダーの提供に努めていきます。