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三洋化成ニュース No.544
2024.07.11
私は京都大学で24年間地球科学の教授を務め、定年後も全国を飛び回って火山の研究をしています。今回は地下で起こっているダイナミックな現象を紹介しましょう。
日本には富士山など美しい火山がたくさんあります。火山は時折真っ赤なマグマを噴き出しますが、どのようなメカニズムで噴火するのでしょうか?
噴火とは地下のマグマが溶岩として地上に出たり、火山灰となって降り注いだりする現象です。マグマとは岩石が溶けたもので、地殻の下にあるマントルという部分から徐々に地上まで上がってきます。こうした活動が繰り返されることで富士山のように巨大な火山がつくられました。火山の地下の構造について説明します。地下約20キロメートルに「マグマだまり」があります。摂氏1000℃もの高温で液体のマグマがぎゅうぎゅうに詰まっている場所です。ここから、次に挙げる三つの仕組みで噴火が起こります。
一つ目は、圧力がかかって絞り出されるケースです(図ア)。巨大地震が起こった際にはマグマだまりに外から力がかかり、絞り出されるように地表に噴出します。このマグマが通った道を「火道」といい、地上に出たところを「火口」と呼びます。噴火のたびにマグマは既に塞がっている火道をこじ開けます。火道から火口へという経路で、噴火は何十万年もの間に何度も繰り返されるのです。
噴火モデルの二つ目は、新たにマグマが注ぎ足されるケースです(図イ)。うなぎ屋の秘伝のタレではありませんが、古いマグマに新たなマグマが地下数十キロメートルの深部から絶えず注ぎ足されます。これは休止中の火山でも絶えず起こっている現象です。実は、マグマだまりの大きさには限界があるので、注ぎ足し続けられると圧力が上がります。その結果、マグマは圧力の低い所を求めて火道を上昇し、最後に火口から噴火します。
三つ目は、外圧など外からの力を受けていないのに、マグマだまりのマグマが「自ら上昇して」噴火するケースです(図ウ)。マグマの中には水分が5%ほど溶け込んでいます。1000℃ もある高温のマグマに水分が含まれるというのは想像しにくいかもしれませんが、実は高温のマグマの20分の1は水なのです。といっても普通の水ではありません。高温・高圧という環境の中で、水の三態(すなわち固体の氷、液体の水、気体の水蒸気)とは違う特性を持った水です。化学で説明すると、水素と酸素が電離した状態でイオン化した水が、マグマの中にしっかり存在しているのです。ところが、地震などによってマグマだまりが揺すられると、このイオン化した水が泡立ち、水蒸気となります。通常、水が水蒸気になると体積は1000倍以上に膨らむので、マグマの体積も当然膨張します。その結果、マグマだまりの圧力が上がって噴火に至ります。三つ目のモデルはこの「泡立ち現象」によって起こる噴火で、マグマが噴火する時にだけ見られます。
こうした仕組みは20世紀になって火山学が進展して初めてわかりました。まさに地球内部で起こっているダイナミックで不思議な現象です。次回は、そうした火山が美しい景観や温泉などの「恵み」を与えてくれるお話をしましょう。
1955年東京都生まれ。京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授・龍谷大学客員教授。専門は、地球科学・火山学・科学コミュニケーション。東京大学理学部地学科卒業、理学博士(東京大学論文博士)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。著書に『知っておきたい地球科学』『首都直下 南海トラフ地震に備えよ』などがある。