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[vol.3] 火山の噴火が巨大地震によって誘発される仕組み

三洋化成ニュース No.546

[vol.3] 火山の噴火が巨大地震によって誘発される仕組み

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2025.01.15

鎌田 浩毅

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地震が火山の噴火を引き起こす

海で巨大地震が発生すると、陸上にある活火山の噴火を誘発することがあります。地震によって地盤にかかる力が変化した結果、マグマの動きを活発化させるのです。

南海トラフ巨大地震による影響が想定される範囲(イメージ)

20世紀以降の例を見ても、マグニチュード(以下Mと略記)9クラスの巨大地震の後、数年以内に近くの火山が噴火するといった現象が起きています。

例えば、2004年にインドネシアのスマトラ島沖で起きたM9.1の地震では、地震発生後4カ月から3年の間に、インドネシア国内にあるタラン火山やムラピ火山などが次々と噴火しています。タラン火山は火山灰を噴き出し、4万人を超える住民が避難しました。また、東隣のジャワ島にあるムラピ火山も噴火を開始し、火砕流によって300人を超える犠牲者が出たのです。

かつて富士山では、巨大地震によって噴火が誘発された例があります。前回の噴火は300年ほど前の江戸時代ですが、太平洋で二つの巨大地震が発生した後でした。

まず1703年に元禄関東地震(M8.2)が起き、その35日後に富士山が鳴動を始めたのです。さらに4年後の1707年には、宝永地震(M8.6)が発生しました。この宝永地震は約100年おきにやってくる南海トラフ巨大地震の一つです。

そしてついに宝永地震の49日後、富士山は南東斜面からマグマを噴出し、江戸の街に大量の火山灰を降らせました。「宝永噴火」と呼ばれる歴史的な大噴火です。降り積もった火山灰は横浜で10センチメートル、江戸では5センチメートルの厚さになりました。

火山灰は2週間以上も降り続き、昼間でも薄暗くなってしまったという江戸時代の記録が残っています。これは富士山の噴火史でも、マグマが出た量が多いほうから2番目という大噴火でした。

 

地震の揺れが、マグマの活動を促す

地震によって噴火が誘発される仕組み

宝永噴火の原因は、直前に起きた二つの巨大地震が地下のマグマだまりに何らかの影響を与えたためと考えられています。例えば、地震によってマグマだまりの周囲に割れ目ができ、噴火を引き起こしたと推定されるのです(図a)。

本連載の第1回(三洋化成MAGAZINEサイトを参照)で述べたように、マグマの中にはもともと5%ほど水分が含まれています。巨大地震でできた地下の割れ目によってマグマだまり内部の圧力が下がると、この水が水蒸気となって泡立ちます(図b)。

水は水蒸気になると体積が一千倍ほどに増えるため、マグマは外に出ようとして火道を上昇し、地表の火口から噴火するのです(図c)。宝永噴火も同じメカニズムと考えられています。地震に揺すられて不安定になったマグマが49日後に噴火したのです。

実は、2011年3月11日に東日本大震災が発生した4日後の3月15日に、富士山頂の地下でM6.4の地震が発生しました。地上でも最大震度6強という強い揺れが観測され、静岡県富士宮市内では2万世帯が停電しました。この地震の震源は深さ14キロメートルだったため、富士山のマグマが活動を始めるのではないかと私たち火山学者は大いに肝を冷やしました。東日本大震災による大揺れでマグマだまりの天井に亀裂が入ったと考えられたからです。

しかし、幸いその後、噴火の可能性が高まったことを示す観測データは得られていません。といっても、状況がいつ変化しても不思議はないので富士山では24時間態勢での厳重な監視が必要です。

今後、日本列島周辺で起きるM9クラスの巨大地震としては、2035年±5年に発生が予想されている南海トラフ巨大地震があります。宝永地震の例と同様に、次回の南海トラフ巨大地震をきっかけに富士山が噴火するかどうかが注目されています。

 

鎌田 浩毅〈かまた ひろき〉

1955年東京都生まれ。京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授・龍谷大学客員教授。専門は、地球科学・火山学・科学コミュニケーション。東京大学理学部地学科卒業、理学博士(東京大学論文博士)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。著書に『知っておきたい地球科学』『M9地震に備えよ 南海トラフ・北海道・九州』などがある。

 

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