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富士山の噴火災害に備える

三洋化成ニュース No.547

富士山の噴火災害に備える

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2025.04.11

鎌田 浩毅

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富士山が噴火したら、その被害は?

富士山は日本一の活火山ですが、過去の噴火史は古文書を調べることでもわかります。残された記述を丁寧に読んでいくと、富士山が平均30年ほどの間隔で噴火していたことがわかってきました。
しかし、富士山は江戸時代の1707年に噴火してから現在まで300年以上も鳴りを潜めています。もし、長期間ため込んだマグマが一気に噴出したら、江戸時代に起こったような大噴火になる可能性も否定できません。

図:富士山ハザードマップの概要。内閣府の資料を基に筆者作成

富士山が大噴火した場合、当時とは比べものにならないくらいの被害が出ると予想されています。富士山の裾野にはハイテク関係の工場が数多くあります。火口から出た細かい火山灰はコンピューターの中に入り込み、さまざまな機能をストップさせてしまうでしょう。何十日間も舞い上がる火山灰は、通信・運輸を含む都市機能に大混乱をもたらすはずです。

さらに室内に入ったごく細粒の火山灰は、花粉症以上に鼻やのどを痛める可能性があります。目の痛みや気管支喘息を起こす人も続出し、医療費が一気に増大する恐れもあります。

また、火山灰は航空機にとっても大敵です。上空高く舞い上がった火山灰は、偏西風に乗って東方へ飛来します。富士山の風下には3700万人の住む首都圏があり、羽田空港はもとより成田空港までもが使用不能となるのです。

一方、富士山の近傍では、噴出物による直接の被害が予想されています。富士山のすぐ南には、東海道新幹線・東名高速道路・新東名高速道路が通っています。もし富士山から溶岩流や土石流が南の静岡県側に流れ出せば、これら3本の主要幹線が寸断される恐れがあるのです。首都圏を結ぶ大動脈が何十日も止まれば、経済的にも甚大な影響が出るに違いありません。

かつて、火山の噴火が国際情勢に影響を与えたこともあります。1991年6月に起きたフィリピン・ピナトゥボ火山の大噴火では、風下にあった米軍のクラーク空軍基地が、火山灰の被害で機能停止しました。火山が噴火している最中はジェット機もヘリコプターも使えないからです。

このような噴火を契機に米軍はフィリピン全土から撤退し、極東の軍事地図が書き換えられました。もし将来、富士山の噴火が始まると、その規模によっては、厚木基地をはじめとする在日米軍の戦略が大きく変わる可能性もあるのです。

 

災害を事前に知り、対策を立てる

有珠山の噴火(2000年3月)

富士山が噴火した場合の災害予測が内閣府から発表されています。富士山が江戸時代のような大噴火をすれば、首都圏を中心として関東一円に影響が生じ、総額2兆5000億円の被害が発生するというのです。これは2004年に内閣府が行った試算ですが、東日本大震災を経験した現在では、この試算額は過小評価だったのではないかと多くの火山学者は考えています。

いずれ新しい災害評価が発表されるでしょうが、首都圏だけでなく関東一円に影響が出ることは確実です。まさに富士山の噴火は日本の危機管理項目の一つといっても過言ではないのです。

噴火災害から身を守るには、噴火した場合に危険な場所はどこかを示す地図が必要です。このような地図はハザードマップ(火山災害予測図)と呼ばれていて、火山防災の際には最も重要です(図)。

例えば、2000年3月に噴火した北海道・有珠山うすざんでは、噴火の前にハザードマップが配られていたため、住民は速やかに避難することができ、一人の犠牲者もないまま噴火は終息しました。ハザードマップは、避難計画・避難施設の整備・土地の利用計画にも用いられます。ネットでもダウンロードできるので、噴火の前にチェックしていただきたいと思います。

 

 

鎌田 浩毅〈かまた ひろき〉

1955年東京都生まれ。京都大学名誉教授・京都大学経営管理大学院客員教授。専門は、地球科学・火山学・科学コミュニケーション。東京大学理学部地学科卒業、理学博士(東京大学論文博士)。京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て現職。著書に『大人のための地学の教室』『みんなの高校地学』『知っておきたい地球科学』『M9地震に備えよ』などがある。

 

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