Recruiting

インターンシップ Entry 新卒採用 Entry キャリア採用 Entry

プロジェクトストーリー

プロジェクトストーリー

デジタル嗅覚の
多様な価値を世界に届けたい 多様な価値を
世界に届けたい

匂いセンサーの開発と事業化への挑戦

匂いセンサーの開発と事業化への挑戦

OUTLINE

概要

スマートフォンから産業用機械まで現代社会に欠かせない機械・デバイスに多数搭載され、すっかり身近になったセンサー。しかし、五感のうちの嗅覚に代わる「匂いセンサー」だけは未だ標準となる技術が確立されていない。三洋化成では2019年からこの課題に取り組み始め、2022年には事業化に向けた新たな部署も誕生。着々と成果を重ねている。

MEMBER

メンバー紹介

  • S.J.

    デジタル嗅覚
    事業創造部
    部長

    S.J.

  • T.I.

    デジタル嗅覚
    事業創造部
    ソリューション開発グループ
    グループリーダー

    T.I.

  • K.N.

    デジタル嗅覚
    事業創造部
    ソリューション開発グループ
    チームリーダー

    K.N.

story02 story02

データと経験の蓄積を
活かし大きな挑戦を!

ストーリー01

三洋化成の研究企画開発部が担う重要なミッションの一つは、挑戦に値する新しい研究開発テーマを探し出すことだ。2019年1月某日、その日も日々の仕事の合間を縫ってメンバーが集まり、テーマ探索に向けてのアイデア出しを行っていた。
「大きなトレンドとしてはなんといってもセンサーだろう」
「五感のなかで、まだ実用化できていないセンサーは嗅覚ですよね」
「嗅覚の仕組みは複雑で未だ解明されていない部分も多いようですね。ただ、基本的な原理としては、鼻の中にある嗅覚受容体がそれぞれ異なる匂い分子を検知して脳に伝えることで嗅ぎ分けているようです」
「受容体と匂い分子との間の選択的な吸着の制御が鍵ということですね。それなら当社に蓄積されている材料の界面制御技術を使えば、他社より高性能の人工の受容体を開発できるかもしれませんね」
「確かに当社の技術が活かせるような気がします」
「3000種くらいある当社の製品群の開発ノウハウを活かせそうです。用途別に求められる製品の機能を物性と組成に変換して開発を行ってきたこのノウハウを応用できれば、人工の嗅覚受容体の開発競争を優位に進められる気がします」
「やってみる価値は高そうですね」
「文献を調べてみると簡単ではなさそうだが、高付加価値の材料をコアとした新規事業の開発テーマとして有望だと思います。チャレンジしてみたいですね」
「よし。まずはなるべく手をかけずに将来的に本格的な開発へ移行するにあたって、どのような課題がありそうかをざっくりと把握するための予備検討をしてみましょう」
ミーティングに参加していた3名がそれぞれ別のテーマを持ちながらひっそりと検討を始めた。

ストーリー01

どのような実験を行うか繰り返し相談した結果、まず挑戦したのは、なんらかの匂いを検出できる材料を使って複数の匂い検出素子をつくり、それら匂い検出素子が匂い成分を捕捉したことを電気信号として測定するデバイスのプロトタイプを試作してみることだった。最小限の時間と費用での試みが、さらなる深掘りを促すような有意なデータを弾き出したことで、3人のモチベーションは大きく高まった。試作からは様々な技術課題を得ることができたため、年4回ほどプロトタイプの改良を繰り返して徐々にレベルアップ。全くの手探り状態から短期間で今後の取り組むべき大まかな課題と可能性を明確にすることができたため、取り組むべき新たなテーマとして会社に提案するに至った。
ミーティングに参加していた3名が​それぞれ別のテーマを持ちながら​ひっそりと検討を始めた。​その中に、T.I.の姿があった。

story02 story02

究極的には杜氏の嗅覚を
再現することを目標に

ストーリー02

「匂いセンサー」は正式に開発テーマ化され、様々な課題に直面しつつも開発は着々と進んだ。こうして、独自の界面制御技術を織り込んだ多種類の樹脂材料を用いて作製した匂い検出素子と、それらを1基板に集積化したプローブと呼ぶ人工の嗅覚受容体の原型を実現。また、プローブ上の各匂い検出素子に匂いサンプルを正確に暴露させ、その間に各素子で起こる電気的な物性変化を測定・記録する装置と、得られた物性変化のパターンから匂いサンプルを識別するデータ解析技術も、製品化へ向けた開発レベルに近づいていった。

ストーリー02

ストーリー02

2021年になると具体的な用途の検討も開始され、Beauty&Personal Care分野における新規ビジネス立案および研究開発のマネージャーを務めていたS.J.にも応援が要請された。S.J.をメンバーに加え、食品や嗜好品の高付加価値や、嫌な臭いの予測や早期発見による防止など、様々な用途への展開が検討されていく。そんな中、最初のテストケースとして、以前からお付き合いのあった京都・伏見の酒蔵に協力頂きながら、日本酒造りへの応用を進めてみることになった。

ストーリー02

香りが製品の付加価値向上に強く関与している酒造の世界なら「匂いセンサー」にも必ず活躍の場がある。そうした判断のもと、都鶴酒造との共同研究が始まった。都鶴酒造は京都・伏見の酒蔵で、昔ながらの少量高品質なこだわりの酒造りを行なっている。共同研究の目標は、優れた杜氏の感覚を 「匂いセンサー」に移し取り、これを活用することで、安定した品質管理や製造工程の省力化、ひいては新商品開発のための香りに着目したマーケティングなどにつなげることにある。ぜひ成功させて京都の歴史ある地域産業に貢献したいという願いもあった。

2021年7月にこの共同研究の開始がプレスリリースによってアナウンスされると、S.J.のもとに、酒造以外の食品・飲料メーカーや病院・介護施設など多様な分野から引き合いが寄せられるようになった。S.J.は、そのそれぞれについて、顧客と開発陣の間の橋渡し役を担当。それぞれのケースで検知すべき匂いのサンプルを顧客から提供してもらい、それに合わせて開発陣がプローブや装置,測定条件をチューニング。うまくいけば現場で試してみてさらにブラッシュアップしていくという動きが、複数件、同時並行で進められるまでになった。

story03 story03

多様なニーズに応えつつ、
ユーザーにとって
使いやすい製品へ

実用化への動きが一気に本格化したことを受け、2022年4月、S.J.を部長兼マーケティングマネージャーとして「匂いセンサー」の事業化を担うデジタル嗅覚事業創造部が誕生した。ユニットリーダーとして3年間「匂いセンサー」の開発を率いてきたT.I.は、部内で技術開発を担うソリューション開発グループのリーダーに着任。「匂いセンサー」の要素技術を、「(1)匂いの成分を検出する材料、(2)匂いをサンプリングして材料が匂い成分を捕捉したことを電気信号として測定する装置、(3)計測・データ解析技術」に大別し、それぞれに担当チームを配して、その全体を統括する立場となった。途中で立ち消えていく研究開発テーマも決して少なくないなか、世界でも標準となる技術が確立されていない「匂いセンサー」という手強いテーマをゼロから始めて事業化検討開始まで進められたことには大きな価値がある。「必ず事業化に結びつけ、世界の人々に匂いの新たな利用価値を提供したい」。T.I.の想いはさらに深まった。

ストーリー03

ストーリー03

一方、入社以来一貫して電池材料に関する研究開発を担当してきたK.N.は、この時点から(3)の計測・データ解析技術を担当するチームのリーダーとしてこのプロジェクトに参画することになった。開発の中でも顧客に近い業務を担当するため、開発陣を代表する形で営業担当のS.J.とともに引き合いのあった顧客を訪問。技術コンセプトを説明し、サンプルの提供を得られた場合はそれを持ち帰って、(1)(2)のグループと連携してラボでの測定を実施。その結果をもとに「匂いセンサー」活用の提案を行うという大役を担う。引き合いは増える一方で、食品・飲料分野から工業排水処理分野まで、ニーズの内容は多岐に渡る。顧客訪問を繰り返す中で、「“匂い”にまつわる悩み」すなわち「「匂いセンサー」に対する潜在ニーズ」がいかに多様であるかを痛感。極めて切実に「匂いセンサー」を必要としているケースも多く、K.N.はこの新しい事業に大きな意義とやりがいを感じるようになっていった。

プロジェクトの当面の目標は、事業の実績化だ。2022年度中にいくつかの製品の設計を完了させ、2023年度中に何らかの形で売上を計上する。さらに、2030年には営業利益10億円、換言すれば、それだけの価値を世の中に提供できる事業へと発展させていこうという目標も掲げられた。一方、究極的には「センサーで測定したデータと、人が嗅覚を通じて感じていることとの関係性を見出す」という、世界中の研究者の前に立ちはだかる難題を解決しなければならない。しかし、S.J.もT.I.もK.N.も、その答えは、顧客のニーズに一つひとつ応えていくという地道な開発活動の延長線上に必ず見つかるに違いないと考えている。

「匂いセンサー」は、材料の機能を最大限引き出せるよう装置や計測・データ解析法まで設計して顧客価値を高めるという、三洋化成の他の製品にはない特徴を備えている。このため、BtoBに留まらずBtoC製品へと発展していく可能性を秘めている。
「「匂いセンサー」で世界のトップに立ち、そこで出会った多数の顧客のより広い要望に、他社を巻き込んだコラボレーションによって応えていきたい。そして、企業を通じて、あるいはより直接的に、よりよい社会の建設に役立ちたい」。S.J.以下メンバー全員のそんな熱意が、かつてない製品の実現とかつてない市場の開拓という二重の難事を可能にしていく。